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棚橋和博音楽コラム 僕にとってのロック名盤八十八作品

【第9回】『ソングス・オブ・デイヴィッド・ルイス』デイヴィッド・ルイス

成功を収めることが出来なかった天才、 デイヴィッド・ルイス。若かりし頃、50枚だけプレスしたデモ盤には、 その光輝く才能がぎっしり詰まっています。

  • 情報掲載日:2018.08.04
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
『ソングス・オブ・デイヴィッド・ルイス』
『ソングス・オブ・デイヴィッド・ルイス』

ヘロンというバンドのことをこのコラムで紹介した時、
「きっと、このコラム史上最も地味な…」と書いたのですが、
今回は、それをさらに上回る地味なアーティストかもしれません。
でも、作品は素晴らしいし、何で売れなかったのか、
全く理解に苦しむ──まぁ、そんなアーティスト、実は、山ほどいますよね(笑)。

さて、今回の主役はデイヴィッド・ルイスです。
1951年2月、北アイルランドのベルファスト生まれ。
既に67歳になるでしょうか。
16歳の時にトリオ・バンド、ザ・メソッドを結成。
その当時、北アイルランドでは、かのヴァン・モリソン率いる、
ゼムの成功に沸き立っていました。デイヴィッド・ルイスは、
当時からヴァン・モリソンと交流があったようで、
のちに、ヴァン・モリソン2005年の作品『マジック・タイム』
でピアノを弾いたりなんかしています。
同郷のよしみで参加したのでしょうね。

さて、ザ・メソッドもゼムに続けとロンドンへ進出し、
69年にバンド名をアンドウェラズ・ドリームへと改名し、
アルバム『ラブ・アンド・ポエトリー』をリリースします。
フルートやサックスなど管楽器を効果的に使いながらも、
リリース当時に流行っていたサイケデリック・ロックの雰囲気を
作り上げようとしていますが、デイヴィッド・ルイスのソングライターとしての
持って生まれたポップな資質は隠しようもなく、そのアンバランスさが
面白いアルバムになっています。
でも、『ラブ・アンド・ポエトリー』の、この、
わけのわからないジャケットは頂けません。これじゃ、売れなくて当然です(笑)

『ラブ・アンド・ポエトリー』
『ラブ・アンド・ポエトリー』

アンドウェラズ・ドリームは気を取り直し、更にアンドウェラと改名し、
アルバム『ワールズ・エンド』を1970年にリリースし、
翌年1971年には名作『ピープルズ・ピープル』をリリースします。
『ピープルズ・ピープル』は、ビートルズ直径のバンド、
バッド・フィンガーのような湿り気のあるブリティッシュ・ロックと、
アメリカのバンドの最高峰、ザ・バンドのブルース&ソウル・フィーリングを併せ持った、
見事な完成度を誇るアルバムとなりました。
デイヴィッド・ルイスの才能が更に満ち溢れているというか、
全11曲、どれをシングル・カットしても売れそうなナンバーばかり。
だけど……これもですね、全く売れなかったんですよねぇ(苦笑)。
デイヴィッド・ルイスは超イケメンで、
役者でもイケるのではないかと思うほどのマスクで、
さらに、曲調のナイーヴさとキャラがマッチしていましたから、
売れなかった方がおかしいくらいなんですよねぇ。
彼が今でも無名のままで、あまり語られることがないのが何より僕は悔しいのです。
アンドウェラの歴史は、この2nd『ピープルズ・ピープル』
で終わってしまうのは何とも惜しかった。
今は再発紙ジャケ盤で『ワールズ・エンド』も『ピープルズ・ピープル』も
リリースされていますから、出来たら、『ピープルズ・ピープル』くらいは
聴いて頂けると、成功しなかったこのバンドも報われる……という感じです。
というか、ロック&ポップス好きなら必携の名作です。

『ワールズ・エンド』
『ワールズ・エンド』
『ピープルズ・ピープル』
『ピープルズ・ピープル』

さて、バンド解散後、デイヴィッド・ルイスは何作かソロ・アルバムを
リリースしますが、アンドウェラ以上にシーンから黙殺されました。
本当に勿体ない才能ですよ。
その、デイヴィッド・ルイスの光り輝く才能をリアルに体験出来る作品はと言うと、
まぁ、『ピープルズ・ピープル』でも充分なのですが、
1970年にたった50枚だけプレスしたとの噂ありのデモ音源集
『ソングス・オブ・デイヴィッド・ルイス』なのです。
当時は『ソングス』というタイトルで制作された作品で、
これからソロとしてもソングライターとしても売り込みを掛けようか、
との狙いで作られた資料用のアルバムなんです。
その存在が疑問視された時期もありましたが、何とそれが、
2011年に日本で正式リリースされたのです。
僕はあまりに嬉しくてレコードとCDの両方を入手してしまいました(笑)。
白い厚手の紙に、ただの四角いシールの貼られている、
まさにデモらしい仕様と、そこに封じ込められたデモ音源は、
時を忘れてしまうほど、その、美しいメロディとナイーヴなヴォーカルに、
思わず身を委ねてしまいます。本来は彼のキャリアを振り返ると、
『ピープルズ・ピープル』を選ぶべきなのでしょうけど、
僕は敢えてこの『ソングス・オブ・デイヴィッド・ルイス』を代表作に選びます。
今現在、気軽に入手出来るのかどうかはわかりませんが、
中古でも、見つけたら、即買いをお薦めします。
シンプルなピアノの弾き語り『ユー・ドント・ノウ』や
『エバーラスティング・ラブ』を聴いたら、
彼のその才能にベタ惚れするのは間違いありません。
但し、あくまでもデモ音源なので音の完成度を求める方にはお薦めしませんよ。

さて、現在のデヴィッド・ルイスですが、
ロンドンのサボイホテルなどでピアノの弾き語りライヴをやっているようです。
いつかは行って見てみたいなぁと思っています。
彼は2014年に新曲『Paradise Isle』を配信リリースしています。

『Paradise Isle』
『Paradise Isle』

ゆったりとした、それほど起伏のないメロディの曲ですが、
少し渋みを増したヴォーカルを聴かせてくれました。
成功を掴んだとは言い難いアーティストですが、地道であろうが、
デヴィッド・ルイスが今もなお現役で活動してくれているのが何よりも嬉しいです。

彼はスターになるよりも、そんな地味な生き方を望んだのかもしれません。

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