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棚橋和博音楽コラム 僕にとってのロック名盤八十八作品

【第7回】『RON SEXSMITH』ロン・セクスミス

新作がリリースされる度に躊躇なく買い求め、聴き続ける、 信頼度の高いアーティスト、ロン・セクスミス。

  • 情報掲載日:2018.07.22
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

新作がリリースされる度に、
その中身を問わず躊躇なく購入するアーティストがいます。
ベテランのヴァン・モリソンなんかは僕にとってその代表格ですが、
今回紹介するロン・セクスミスもその内のひとりです。

 

1990~2000年頃は特に、
日本のロック・アーティストがメガヒットを放ち大きなマーケットとなり、
僕も、地元・新潟発のテレビやラジオの音楽番組制作に携わったり、
インタビュー集などを作ったりしました。
インタビューで東京に出掛けることも多く、
特に、X JAPANのhideやLUNA SEA、hideが探し当てたバンド、
ZEPPET STOREなど多くのアーティストを抱えていた、
レコード会社、MCAビクターにお邪魔させて頂くことが多かったですね。

それらアーティストと僕をつないでくれたのが、
聡明かつ美人の芦葉さんという女性プロモーターの方でした。
hideやLUNA SEAが新作をリリースする度に、
どうインタビュー展開をするか、
何か面白いプロモーションは出来ないか?
など色々話し合い、多くの仕事をやらせて頂きました。
MCAビクターは幾つかの洋楽レーベルの販売権を持っていて、
洋楽アーティストのリリース数も多かったですね。
ガンズやスティーリー・ダンなんかもMCAビクターからリリースされていたと思います。

ある日、芦葉さんから、
「これ、地味ですけど、いいですよ」と渡された一本のカセットテープが、
ロン・セクスミスの『RON SEXSMITH』なる彼のメジャーデビュー作でした。
若い芦葉さんが薦めてくるから、
割と現代的なオルタナ系アーティストかと思いきや、
その間逆のオーソドックスなシンガーソングライターだったことに驚きました。
収録曲15曲が全てゆったりとしたミディア系。
一聴したその声は、ジャクソン・ブラウンとエルヴィス・コステロを
足して2で割ったような中低域を生かしたヴォーカル・アーティストです。
芦葉さんが言うように、確かに地味だと思いましたが、
妙にこねくりまわさない美しいメロディがまずベースにあり、
さらに、シンプルだけど、その曲がより光るような生々しいアレンジが施されていて、
何度聴いても聴き飽きない作品だなぁと思いました。

 

この作品のプロデュースを手掛けたのがミッチェル・フレームです。
ロス・ロボス、スザンヌ・ヴェガ、エルヴィス・コステロなど多くの作品を手掛けている、
言わば名プロデューサーです。
そして、ミッチェル・フレームがプロデュースした作品には、
必ずエンジニアのチャド・ブレイクが関わっていることが多いという、
これまた、言わば、名コンビです。
このロン・セクスミスのデビュー作にもチャド・ブレイクが関わっています。
地味なシンガーソングライターかと思いきや、
凄腕スタッフをあてがってもらい、
満を持してのメジャーデビュー作だったのだとその時に気がつきました。

 

しかし、そこに至るまでの彼の経歴は、本当に地味で面白いのです。
彼はカナダ・オンタリオ州セント・キャサリンズ生まれ。
現在は54歳ですから、その、デビュー作リリースの1995年の時は既に32歳でした。
デビュー当時、彼には10歳と6歳の2人の子供がいました。
彼を語る時に必ず話題になるのが、デビュー前に、
トロントで約6年ほど郵便配達員としてコツコツと働いていたということ。
郵便を配達しつつ口ずさみながら曲のアイデアを絞り出していたといいますから、
言わば遅咲きのデビュー──もう、それだけで、応援したくなっちゃいますよね(笑)。
このデビュー作は、その逸話と何となく直結するテイストを持っていますから、
当時、そのネタを話しつつ、彼のこのデビュー作を多くの人に薦めていました。

 

さて、このデビュー作の冒頭を飾る『シークレット・ハート』ですが、
自分の心に、「お前の秘密を彼女と分かち合えよ」と問いかける、
彼女に思いを打ち明けられない、臆病な気持ちを切々と唄うナンバーです。
シンプルなアレンジですが、途中のコーラスに敵度なソウルフレーバーがあり、
曲そのものを、より、魅力的なものにしてくれています。
ギターの弾き語りで唄われる6曲目『スピーキング・ウィズ・ジ・エンジェル』は、
まだ何も知らず、天使とおしゃべりしているだけなんだという、
自身の子供に向けて書かれた曲です。
世界には色んな難題がある…その闇に触れさせたくないという、親心が胸に染みます。
途中からチェロが加わりいいアクセントになっている、いい曲です。
そして12曲目の『ウェスティン・タイム』。
「ダラダラと時間を過ごすのは罪なのか?」と世間に問う、
ゆったりとした時の流れを愛する彼らしいナンバーです。

 

このデビュー作以降、1年から2年というタームで、
コンスタントにアルバムをリリースし続け、今や彼の作品は14作を数えます。
僕は彼の作品をその都度買い求め、聴き続けてきましたが、
多少の音楽的チャレンジはあるものの、
作品のテイストが大きく変わることはありません。
大ヒット作こそありませんが、
彼の作品を愛する人は、毎作、裏切られたことはないと思います。

デビュー作と同じくミッチェル・フレーム&チャド・ブレイクが手掛けた、
3作目の『wherebautsu』や、
エド・ハーコートやトラヴィスのニール・プリムローズらが参加した7作目『RETRIEVER』
珍しくピアノをメイン楽器に据えた10作目『Exit Strategy Of The Soul』など、
彼のアルバムには本当に好きなものが多いのですが、
でも、ロン・セクスミスと言うと、MCAビクターの芦葉さんから頂いた、
このデビュー作を真っ先に思い出すのです。

『wherebautsu』
『wherebautsu』
『RETRIEVER』
『RETRIEVER』
『Exit Strategy Of The Soul』
『Exit Strategy Of The Soul』

ロン・セクスミスはハリー・ニルソン、キンクス、ゴードン・ライトフットなどの
トリビュート盤やオムニバス盤への参加が多いアーティストです。
そのアーティストの、どの曲をカバーしているのか、
探ってみるのも楽しいですよ。


ロン・セクスミス──ちょっと青臭い、青春を感じさせる、
その、柔らかなヴォーカルに包まれたくて僕は新作を聴き続けています。

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