「僕にとってのロック名盤八十八作品」なるコラムの第8回目です。
今回はニール・ヤングですが、彼のようなメジャーなアーティスト且つ、
キャリアが長く、増してやアルバム毎に変幻自在に、
いろんなことをやるアーティストだと、この1枚!!
というアルバムを選ぶのはなかなか難しいものです。
ヴァン・モリスンとかフランク・ザッパとか、名作ばかりだと、
どれをチョイスしたらいいか……まぁ、悩んでも仕方ないので、
その時の気分というか、インスピレーションでパッと選んで書きたいと思います。
さて、ニール・ヤングとの出会いは、彼が参加したアルバム、
クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの『デジャ・ヴ』です。
中2年の時、高野くんというロック好きの友達に貸してもらって夢中になって聴きました。
4人それぞれのスパークする才能と、コーラスワークに魅せられました。
のちに遡って知ることになるのですが、ニール・ヤングとスティーヴン・スティルスは、
バッファロー・スプリングフィールドというバンドに在籍し、
グラハム・ナッシュはホリーズ、デヴィッド・クロスビーはバーズと、
それぞれメジャーなバンドに在籍していた、今で言う、まさにスーパーバンドでした。
『デジャ・ヴ』をリリースした頃すでにニール・ヤングはソロ・デビューもしていて、
かなりの人気を獲得していました。1969年には、デビュー作『ニール・ヤング』と
2nd『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』の2作をリリースし、当時からやる気満々でした。
72歳になった今も、やる気満々なのは変わりません。凄い爺さんです。
僕は中学1年の頃からラジオの洋楽トップ40番組などを聴き、チャートをノートにつけていました。
1972年にシングル『ハート・オブ・ゴールド』が全米1位を獲得し、
いよいよ彼もスターになったか…と喜んだ記憶があります。
多作家・ニール・ヤングですが、真っ先に頭に浮かぶ曲は…
人によって様々でしょうけど、僕は、『ライク・ア・ハリケーン』です。
結構人気の高い曲なので、同意する方もおられるでしょうね。
この曲を初めて聴いたのが、1976年3月に実現した初来日公演です。僕が高3年の時です。
大学進学が決まったので、関東での住まいを決めに上京した時に併せて武道館で見ることができました。
まぁ、ニール・ヤングの来日公演に併せてスケジュールを組んだんですけどね(苦笑)。
前半は弾き語りのアコースティック、後半はクレイジーホースを従えてのバンドのライヴ。
当時、スタジオ・アルバム『ズマ』をリリースしたばかりで、さらに、
久々にクレイジーホースを従えた粗いロック・アルバムを作り上げました。
しかも、メロディの立ったアルバムで僕は大好きで、彼の好きなアルバムのベスト5に入ります。
ライヴでは、そんなニューアルバムからのナンバーを演奏しつつ、
その中で突然披露されたのが当時未発表の『ライク・ア・ハリケーン』でした。
「きみはまるでハリケーンのよう」と唄われるラヴソングですが、
その演奏はまさにハリケーンそのもの。ギターでフィードバック音から稲妻のような轟音まで披露する、
まさに大作で、初めて耳にするオーディエンスをもなぎ倒すという勢いの曲でした。
この曲、『ズマ』に続く『アメリカン・スターズン・バーズ』なるスタジオ・アルバムに
収録されます。このテイクも悪くはありませんが、やはりこの曲は、
彼が大きな体を折り曲げ、さらに左右に揺らしながら、
ギターと格闘する姿を見つつ、ハリケーンに襲われ朽ち果てるかのごとくスパークする、
ライヴでこそ光り輝く曲だと思います。
同じくクレイジーホースを従え、これまで、ただの一度だけ登場した、
2001年7月28日のフジ・ロックのグリーンステージ。
何とこの日の『ライク・ア・ハリケーン』は約30分に及ぶ熱演でした。
ニール・ヤングにジミ・ヘンドリクスが憑依したかのような彼のプレイを
かぶりつきで呆然と見ていたのを思い出します。
忘れられないライヴ・パフォーマンスです。
初来日とフジロックで聴いた『ライク・ア・ハリケーン』の凄まじさをアルバムで堪能するとしたら、
やはりライヴ盤です。
1991年10月にリリースした『ウェルド~ライブ・イン・ザ・フリー・ワールド』の
『ライク・ア・ハリケーン』も素晴らしいです。
というか、この2枚組ライヴ・アルバムは、全曲『ライク・ア・ハリケーン』の質感を持った、
言わば、彼最大のロック・アルバムです。
「錆びるより燃え尽きたい」──彼の自伝につけられたタイトルですが、
まさに、この言葉がそのまま音になったようなライヴ・アルバムです。
「ロックン・ロールは死なない」と轟音ハードリフと共に叫ぶオープニングの『ヘイ・ヘイ、マイ・マイ』から、
ディランの『風に吹かれて』のカバー、初期の傑作曲『シナモン・ガール』、
アルバム『ズマ』の代表曲『コルテス・ザ・キラー』、そして、
ラストの『ロール・アナザー・ナンバー』まで爆走するニール・ヤング&クレイジーホースを堪能できます。
とにかく、クレイジーホースを従えたニール・ヤングのライヴは無敵です。
どちらかと言うとドタバタとした、決して巧いとは言い難いメンバーですが、
ニール・ヤングと合体した時に聴かせる“暴れ馬”度は凄まじいものがあります。
テクニックや知識だけでは語れない、誰にも真似のできないマジックが宿る時があります。
それがロックやソウル、ポップスの良さじゃないでしょうか。
余談ですが、この、『ウェルド~ライヴ・イン・ザ・フリーワールド』の、
おまけ盤とも言える『Arc』というライヴ盤がこの作品の1ケ月後にリリースされています。
ただただニール・ヤングのノイジーなギターが延々と収録されている、
かなりマニアなアルバムです。コア・ファンならお持ちでしょうね。僕は大好きですよ。
さて、ニール・ヤングは現在72歳。
アーカイブシリーズとして過去のライヴ音源と新作を交互にリリースしていて、
その両方を含めると年に2~3枚は買わなくてはいけない、かなりファン泣かせ…
いや、喜んでいるのか(笑)…チェックし続けるのが大変なアーティストです。
ボブ・ディランは77歳、ヴァン・モリソンはニール・ヤングと同じ72歳、
この3者、共通しているのは今もなお、やたらと新作をリリースしてくれること。
元気なこと、この上ありません。しかもニール・ヤングは、徹底的に音にこだわった、
独自の音楽配信システムを構築していますから、歳を重ねていても侮れません。
音楽業界の行く末を案じているのです。
それにしても、50枚を優に超えるリリース・アイテムを持つニール・ヤングの作品の中から、
何を選ぶか悩むかと思いきや、すんなり、この『ウェルド~ライヴ・イン・ザ・フリーワールド』
に辿り着いたのは、自分としても意外でした。
ジミヘンが生きていたらこんなアーティストになっていたんじゃないかな…なんて思います。