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浅妻 信のサッカーフリークエッセイ

【エッセイ】FOOTBALL JUNKIE「ある中年の怪我」

  • 情報掲載日:2020.05.11
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

このコロナ禍で、唯一、救われたのが大怪我を負った選手かもしれない。

まだまだ余談は許さないが、このコロナウイルス禍に若干の光明が差してきた。
新潟県内でも緊急事態宣言が解除されたが、コロナウイルスは突然変異によって弱体化しており、SARSのように自ら消えてなくなる可能性があるというアメリカの大学の研究結果が報じられたほか、国内でも、大手シンクタンクの日本総研が、実際の感染者数が公式統計を大きく上回り、公表死亡率が大幅に低下する可能性を指摘。これだけの犠牲を払ってまで回避すべきウイルスかどうかの議論も必要ではないかと結んでいる。
もっとも、多数の死者が出ているのも事実であり、一気に楽観論に傾くほど愚かではないと自戒を込めて言い聞かせているが、ドイツのブンデスリーガが今月16日に再開することを正式にアナウンスしたともに、私がずっと追っているスペインリーグも、ついにチーム練習が始まった。先行きが全く見えなかっただけに、こういう当たり前の日常が帰ってきただけで、一気にテンションが上がってくる。

スポーツ界でも大きな犠牲を払われたが、このコロナ禍で、唯一、救われたのが大怪我を負った選手かもしれない。

3トップを担うスアレスとデンベレがともに昨年末に長期離脱となり、残りシーズンを彼ら抜きで戦うことになっていたバルセロナは、シーズン半ばに彼らが間に合う可能性が大になってきた。アルビレックスをみても、存在が都市伝説化していたスペイン人フォワード、ペドロ・マンジーも開幕戦だけの欠場ですみそうだ。
体が資本のプロスポーツ選手にとって、怪我は宿命といえ、長期離脱を余儀なくされる大怪我は精神的に多大なショックを与えるものであろう。しかも、大怪我は予想できないタイミングでやってくる。
全く、参考にならないが、今回は、昨年秋の試合中にアキレス腱を断裂した私の話をしてみたいと思う。

9月のシルバーウィークのある日、その日は快晴で、夜は飲み会、翌日はゴルフと絵に描いたような中年の夢を演じるはずだった。
試合が始まってまもなく、サイドバックからのボールを受けに、前線から降りてきた私は、背後から蹴られたような強い痛みを感じ、大きくトラップミス。ミスの後悔よりも痛みが激しく、しばらくうずくまったが、打撲にしては痛みが強く、長い。しばらくして立ち上がったが、右足が脱力し、力が入らない。なんとなく歩けるので、大怪我ではないと思ったが、未だ経験をしたことがない症状に、ベンチに向かってバツを出し、あっという間に交代となった。
チームメイトに整形外科医がおり、彼が即座に下した診断が、アキレス腱断裂。私も体験して初めて知ったが、アキレス腱自体は切れてしまえば痛みはほとんどない。なので、元気な分、診断が下された後も半信半疑である。サッカーはもちろん、仕事についても、これから自分がどうなるのか、全く実感がわかない。
手術が決まり、怪我を受け入れられるようになってから、ネットでスポーツ選手のアキレス腱断裂の情報を収集した。アルビレックスでいえば船越優蔵。そういえば、彼は2度も切っているのだ。入院、手術、リハビリを経験した私ならわかるが、1度ならず2度の大怪我をプロアスリートは耐えられるものだろうか?ちなみに、術後7ヶ月経過した私は、日常生活ではほぼ復帰できているものの、サッカーはとても無理で、しかも現段階では再びプレーできるようになるとはとても思えない。プロ野球の元広島、前田智徳が、(体のバランスが崩れるので)「先生、もう片方のアキレス腱も切ってくれ!」といったという名言を思い出す。

そんなわけで、自分が大怪我をしてから、一層、選手の怪我のニュースに敏感になり、深いシンパシーも感じるようになった私だが、私と似て非なる上質な筋肉と若さをもったプロのアスリートと最高のメディカルスタッフが本気を出すとどうなるかというと、チェルシーの18歳、ハドソン・オドイという選手が、アキレス腱断裂の手術後、わずか4ヶ月で練習に復帰したというから、もう嫌になってくる。
最後に、シニアリーグも延期になっており、幸い、今季まだ開幕していないが、私が間に合うか?という問い合わせすらないことも付け加えておこう。

 

【浅妻 信】
新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中

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