攻撃的サッカーの申し子、バルセロナ出身の監督とスタッフで固められた今期のチームが、どんな戦いを見せてくれるのか、そこには楽しみしかない。
多少の異論はあろうが、ここ20年で最も強く、かつ、戦術的にもインパクトを与えたチームは、グアルディオラ監督が08年から4年に渡って率いたFCバルセロナであろう。
2回のチャンピオンズリーグ制覇もさることながら、高い位置でボールをキープしたまま攻め続ける攻撃的なサッカーで、後年のサッカー界に多大な影響を与えることになったチームである。
メッシを偽の9番に据えたゼロトップ戦術など、攻撃面のインパクトも大きかったが、それ以上のインパクトを与えたのが守備である。ボールを失った瞬間にあっという間に複数で取り囲んでボールを回収し、高い位置から攻撃を再開する。この「攻撃のための守備」は、今や世界中で実践されているが、言うは易く行うは難し、なかなか教科書通りにはうまくいかない。高い技術と個人、チームレベルでの戦術理解力が欠かせないからである。
前置きが長くなった。
新潟県勢として初めてファイナルフォーに進出した帝京長岡高校のプレーは、グアルディオラ時代のそれにかなり近いものがあった。
一見、シンプルに見える少ないタッチでのパス回しは、高い技術と良いボールの持ち方、ポジショニングの賜物であり、先月のコラムで詳しく書いたが、その中で、7番の田中君に代表されるように常にゴールに直結する縦パスを通そうとする。
それを狭いスペースで受けることのできる10番晴山君の技術も高い。
また、サイドの1vs1の攻防では安易にボールを下げることなく、果敢に突破を狙い、ボールを奪われた後のボールホルダーへのアタックも全員がサボらず、さらに全員が小さいと言われながらも、少なくとも青森山田戦までは空中戦でも負けていなかった。
そして、ペナルティエリア内に何人もが飛び込んでいく攻撃の厚さ。実に攻撃的。全国の高校サッカーファンを虜にしたのも頷ける。
ただ、不幸だったのは、実況が、「フットサルで鍛えた高い個人技」一辺倒だったことで、その凄さを誰も正しく伝えられなかったことである。
フットサルをプレーした人なら誰でもわかると思うが、フットサルボールは弾まず、トラップは足裏で止めるなど、それこそ初心者でも簡単にボールを扱える競技である。
競技フットサルとフットサルボールを使ったミニサッカーは似て非なるものであり、狭い局面で数的同数を打破するための、個人戦術、チーム戦術はフットサルの真骨頂。
詳しくは各自で検索してもらいたいが、帝京長岡が多用していた「スリーオンライン」は、これぞフットサルの動き。これをここまで落とし込めるチームは高校レベルであったのだろうか。
ここで皆に問う。世の中に曲芸のようなボール扱いができる選手は山ほどいるのに、それでも、サッカーのうまい選手とそうでもない選手に分かれてしまうのはなぜなのか。
このシーズンオフにアルビの選手の何人かとプレーをしたが、彼らは実にシンプルにプレーをする。
なぜ、それができるかといえば、局面で、瞬間的に選択すべき正しいプレーを共有し、各自がそれにしたがって動いているからだ。
次のプレーへと繋がるスペースへの動き、体の向き、ボールの持ち方。そして、仕掛けるべきところで一気にギアをあげる。
そう、帝京長岡高校がやっていたように。
戦術王国スペインでは、こういうことを子供の頃から叩き込まれているという。
日本では、頭が良い、悪いで一刀両断されがちであるが、サッカー頭が悪いと言われる代表格の私が言う。
高いレベルでは、このような動きは考えてから動いても間に合わない。
習慣化、反射化するまで落とし込むしかない。私の理解するメソッドシステムはこれである。
サッカー協会の新年会で、アルベルト監督は、チームが、自分がリクエストした選手たちを集めてくれたというような話をしていた。
また、新聞報道によると、攻守の切り替えを今まで以上に厳しくしているという。
プロチームが、高校生を模範にするのもおかしいが、帝京長岡の攻撃的で美しいサッカーは多くのサッカーファンを魅了した。
攻撃的サッカーの申し子、バルセロナ出身の監督とスタッフで固められた今期のチームが、どんな戦いを見せてくれるのか、そこには楽しみしかない。
【浅妻 信】
新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中