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浅妻 信のサッカーフリークエッセイ

FOOTBALL JUNKIE【いざ、欧州路線へ】

  • 情報掲載日:2019.12.22
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

アルビレックス新潟は本気で変わろうとしている。
長い戦いになる可能性もあるだろう。

プレーオフJ2差別という言葉が話題になったそうだ。
J1リーグ16位の湘南とJ2徳島とのJ1参入プレーオフは、先制され、さらに劣勢に立つ湘南が、64分、起死回生の同点ゴールを決めるとそのまま逃げ切り、スコアはドローながらも来季のJ1残留を決めた。引き分けは上位チームが勝ちというリーグ戦の順位に従ったルールの中で、すでに2試合戦ってきた徳島に対し、J1というだけで無条件に上位とされ、さらにホームで戦える湘南はあまりに優遇されている、これはJ2差別だということになったらしい。
高ければ高い壁の方が、登った時気持ちがよいと教えてくれた国民的ロックバンドがあったが、プレーオフに回ると、基本的に3連勝しかなく、それが嫌なら22チームのうち、自動昇格となる上位2チームに入らなくてはならない。
改めてJ1への高い壁を知る。アルビレックス新潟は、来季そんなJ2リーグで3年目を迎える。

この高い壁に挑む新潟の来季の陣容だが、まさか、先月、このコラムで書いたことが実現するとは思ってもいなかった。

アルベルト・プッチ・オルトネダ新監督に、この度GMとしての就任が発表された玉乃淳。

前者はFCバルセロナの育成部門出身、後者は中学卒業時にアトレチコ・マドリーのユースにスカウトされ、フェルナンド・トーレスとともにプレーをした元祖天才。
いきなりの欧州(スペイン)路線への舵取りである。
昨年、是永社長の就任と同時に、2人の国際派ビジネスマンの取締役の就任が発表されたが、Jリーグの中でも指折りのグローバル化が加速しているといえよう。
現時点では、新たな選手の獲得などが全くアナウンスされておらず、来季のチームがどうなるかは全く白紙であるが、今年のメンバーをベースとして、当然新監督と玉乃GMの意向が強く反映されることだろう。
あっと驚く選手の獲得があるのか。それとも現メンバーの適性を定めた上で、新監督の色を出していくのか。
毎年言っているが、オフシーズンの楽しみである。

しかし、決して流れに水をさすわけではないが、いきなりの路線変更がすぐに結果が出るほど、Jリーグは甘くないだろう。
新監督が、古巣のバルセロナのようなポゼッションサッカーを指向する可能性もあるが、そうすると、新潟が太刀打ちできるはずのない豪華陣容でバルセロナ化を図った神戸の苦戦(2年目の後半になってようやく実力を発揮してきたが)が頭によぎる。
また、個人的にもっともサッカーが美しく、スペイン流のポゼッションサッカーを展開していると思っている川崎フロンターレの礎を築いたのは風間八宏氏であるが、当初は全く結果が出なかったのを覚えているし、その後、実績を買われて名古屋に移ったものの、今年、シーズン途中で解任された。

専門的な話になるが、日本において、ポゼッションサッカーがなぜ絵に描いた餅になりやすいのかというと、ポジショニングに対する概念が根本的に違うからであろう。
日本においては、ボールを受けに来ず、足元で受けようとすると怒られることが多いが、適切なポジションを取っていれば、そこから動く必要はなく、むしろ、パスの出し手に、強く、ピンポイントのパスが要求される。ペナルティエリア付近で二人のディフェンスに囲まれている選手の足元にシュートのようなスピードで正確なボールを当てれば、その二人のディフェンスは一気に置き去りになり、数的優位が作れる。二人が守っているということはそこが一番相手にとって危ない場所であり、バルセロナが目指しているのも、当然ゴールに最も近い急所にボールを運ぶことである。
いうまでもなく、このサッカーを実現するには、ボールを止める・蹴るを中心とした高度な技術と適切なポジションニングが要求される(日本では、未だ曲芸のようなボール扱いこそがテクニックと尊重される風潮があるのに対し)。
なんとなくのポゼッションを展開してくるチームほど、相手にとって守りやすいチームはない。
ボールを持たれていても怖くないのだ。

新潟は育成年代からメソッドシステムを採用し、下部組織からトップチームまで同じサッカーを目指すことを明言している。また、すでに監督の途中解任はないことも明言していたはずだ。

アルビレックス新潟は本気で変わろうとしている。
長い戦いになる可能性もあるだろう。
そういえば、吉田達磨前監督は今、どこで何をしているのだろう?今こそ、彼の力が必要な気もしてきた。レイソルの下部組織を率いて、欧州のトップクラブをあっと言わせていたのが、彼であったのだ。

 

 

【浅妻 信】

新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中

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