このところ、ディランやヴァン・モリソン、ポール・マッカートニーと、割とメジャーな人の作品が多かったので、久々に、マニアな一枚です。
いや、英米のシンガーソングライター好きなら、大体は持っている一枚かもしれません。
アーニー・グレアムが1971年にリリースした唯一のアルバム、『ERNIE GRAHAM』です。
高校生の頃は、新潟市古町の大竹座の隣ビル2階の「ラブ」や、これまた新潟市東中通の小さなビル2階にあった、「ビリー・ザ・キッド」というロック喫茶にレコードを聴きに通ったものです。
大学生になると、都内でレコード店巡りをしに行ったついでに、渋谷の道玄坂真ん中あたりからちょっと入った小路に、「ブラックホーク」や「B.Y.G」なるロック喫茶があり、そこにもよく通ったものです。
「B.Y.G」は今でもあり、懐かしくなって数年前に立ち寄りました。
さて、そんなロック喫茶の中で、「ブラックホーク」は、流していた音楽に特に厳しく、厳選したもののみ流していました。
ジャズ喫茶と一緒で、友達との会話なんて一切許されず、構わず話している人がいると、「静かにしなさい」と一喝されていました。
アーニー・グレアムはその店がお薦めする一枚でした。
このお店には「Small Town Talk」なるフリーペーパーと言うか、ミニコミ誌があり、行く度にそれをもらって帰ってはレコードを買う参考にしました。
ちなみに、『スモール・タウン・トーク』とはボビー・チャールズとザ・バンドのベーシスト、リック・ダンコが共作した曲で、名盤『ボビー・チャールズ』に収録されています。
リック・ダンコのソロにも入っていた気がします。
記憶が定かではないですが、このミニコミ誌に、この店が薦めるアルバム「ブラックホーク99選」が掲載されており、
『ボビー・チャールズ』も『アーニー・グレアム』も選ばれていたと思います。
さて、アーニー・グレアムのこのアルバムは、ニック・ロウやブリンズリー・シュウォーツ、イアン・ゴムら、当時、イギリスのパブ・ロック系重要人物が多く参加していることから、アーニー・グレアムをパブ・ロック系のアーティストと思われている節がありますが、今作にその匂いは全くありません。
この作品の後にリリースする楽曲には少しその匂いがありますが…。
北アイルランドのベルファウスト出身ということで、同郷のヴァン・モリソンのような、アイリッシュ系やソウル系かと言うと、そっち方面の人でもありません。
いや、『Belfast』という曲は故郷に思いを馳せたアイリッシュアレンジだから、そうではないと言うと語弊がありますかねぇ(笑)…。
僕がこのアルバムの中で特に好きなのが、バックに波のSEが入り、ピアノ+オルガン+アコギで唄われる『Sea Fever』です。
少し暗い、儚さがありつつ、でも、とてつもなく美しい曲です。
アルバム中盤の『The Girl That Turned The Lever』『For A Little While』の6分に及ぶ2曲。
英トラッド系シンガーと言われることも多い彼ですが、そういうイメージを払拭する、湿り気のない、実は王道のシンガーソングライターだと言うにふさわしい曲達です。
とにかく曲そのものの出来がいい。メロディがいい。マニアが喜ぶような、重箱をつつくような、妙な仕掛けがないシンプルな作品です。
僕は暇さえあればこのアルバムをよく聴いています。何度聴いても飽きないんですよねぇ。
以前紹介した、ヘロンというバンドにも通じる、ほのぼのとしたあたたかさがこのアルバムにはあります。
アーニー・グレアム既に2001年に他界しています….。
残念ですが、この名作一枚を残してくれたことを感謝せずにはいられません。
一時は入手するのが難しいアルバムでしたが、幾度となくリイシューされ、今ではアマゾンでも簡単に入手できます。
皆さんにとっても大事な一枚になるはず。
是非お聴きください。