1977年、1978年は大物アーティストの来日ラッシュでした。
その頃の観戦履歴の記憶を辿ってみると…
ジャクソン・ブラウン、ジェフ・マルダー&エイモス・ギャレット、
デイヴ・メイスン、10CC、ジェシ・コリン・ヤング、ボズ・スキャッグス、ライ・クーダー、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム&RCOオールスターズ、エリック・アンダーソン、ジェフ・ベックwithスタンリー・クラーク、スタッフ、ラリー・カールトン、デヴィッド・ボウイ、ウィッシュボーン・アッシュなど…
よくもまぁ、観たもんだなぁと思います。
さらに、あまり興味のなかった、エアロスミス、キッス、フリートウッドマック、ピーター・フランプトン等々、その頃大ブレイクした旬なアーティストやバンドの来日公演を、これでもかと観戦しました。
日々、地下鉄九段下駅を降りて日本武道館に通ったものです。
何の為に関東圏の大学に行ったかと言うと、この為でした(苦笑)。
しかし、その当時、これだけライヴを観ていても、
タイムリーに1978年2~3月に初来日公演を行なった
ボブ・ディランには全く興味が湧かず、観に行ってないのです。
ディランを節目節目でサポートしたザ・バンドは最も好きなバンドでしたし、
冒頭にも書いたように1977年にはザ・バンド解散後、ソロ活動始めた
リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムの来日公演には胸を高鳴らせて観に行っているのにです。
ディランの初来日の日本武道館公演は8日デイズ。即完しています。
勿論、来日のニュースは新聞や雑誌で大騒ぎでした。でも、「ふーん」ってな感じでした。
さらに、来日公演後のレビューでの多くが、「何だか、盛り上がらなかった」的なものが多く、僕はそれらを読み、当時のディランの評価はそんなものだろうなぁという感じでした。
つまり、僕は当時…いや、ここ7~8年くらいまでは、ディランに対して全く興味が持てていなかったのです。
何がきっかけで聴くようになったかよくわからないのですが…
やはり、一時期のディランを支えた、彼のバックバンド、
ザ・バンドは僕が昔も今も、世界最高峰のロックバンドだと思っていますし、彼らの作品を聴くと、興味があろうがなかろうが、
ディランの曲や歌というのは避けては通れないもの。
本当に、徐々に徐々になのですが、あのディランの書くメロディを含む曲の素晴らしさに気づかされたと言いますか、あの独特な唄いっぷりにも、表や裏があったり、様々な表情があったり、その懐の深さにようやく気付かされたのでした。遅いよ、という感じでしょうけど(苦笑)。
「長年真摯に向かい合わなくてごめんよ」と思いつつ、改めて、ディランの作品をここ7~8年、少しずつ買い進め、今となっては、40作近くの彼の作品を日々楽しませてもらっています。
そんなディランの数多い作品の中には、「うーん…」と考え込んでしまうものもあるのですが、ほとんどが重要作と言っていいほど素晴らしいものが多いです。
『ライク・ア・ローリング・ストーン』が冒頭を飾る、『追憶のハイウェイ61』や、
名曲『女の如く』『アイ・ウォント・ユー』が収められている、彼にとって初の2枚組アルバム『ブロンド・オン・ブロンド』、ザ・バンドの面々が初めてアルバム全体をサポートした、『プラネット・ウェイヴズ』など、何度聴いても飽きない名作がズラリです。
近作のフランク・シナトラらが唄った名曲スタンダードカバー作品『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』『フォールン・エンジェルズ』『トリプリケート』で聴かせる激渋の歌も見事です。
そんな中から何を1枚だけ選ぶかと言うと、
コアファンからは、何で? と言われること必至のライヴ盤、『武道館』です。
そう、さっき僕が全く興味が湧かず、行く気もなかったディランの初来日公演。
その、2月28日と3月1日の2公演から良いテイクを収録した2枚組ライヴ・アルバムです。
当時、評論家筋からは酷評された公演を収めたものです。
僕も購入当初は、まぁ、こんなものかなぁと2~3度聴いて棚にしまっていたレコードです。
しかし、ディランの作品を少しずつ集めるにつれ、これはいろんな意味で重要作品ではないか? と思うに至り、さらに、徐々にターンテーブルに乗っかることが多く、
今では、大好きな1枚になりました。
何と言っても、セットリストの素晴らしさです。
これほどの有名曲がズラリと並んだディランのライヴは過去なかったのではないでしょうか。
収録されているのは以下の22曲。
『ミスター・タンブリン・マン』
『嵐からの隠れ場所』
『ラヴ・マイナス・ゼロ』
『やせっぽちのバラッド』
『くよくよするなよ』
『マギーズ・ファーム』
『コーヒーもう一杯』
『ライク・ア・ローリング・ストーン』
『アイ・シャル・ビー・リリースト』
『イズ・ユア・ラヴ・イン・ヴェイン』
『ゴーイング・ゴーイング・ゴーン』
『風に吹かれて』
『女の如く』
『オー,シスター』
『運命のひとひねり』
『見張り塔からずっと』
『アイ・ウォント・ユウ』
『オール・アイ・リアリー・ウォント』
『天国への扉 』
『イッツ・オールライト・マ』
『いつまでも若く』
『時代は変る』
どうです? 有名曲ばかり。まさにベスト選曲でしょ?
当時のライヴ評にもあったように、曲が始まっても何の曲かよくわからないと、アレンジや唄い方を大きく変えて曲をダメにしたとか言われましたが、僕はそうは思いません。むしろ、崩さずちゃんと演奏し、唄っているように思います。
それにしても、初の日本公演に向けて、これほどのセットリストを用意するという、
ディランのやる気と、次の時代に向けた力強いステップを踏み出した、という感じです。
また、のちに新譜でリリースされるアルバム『ストリート・リーガル』から、
メロウな名曲『イズ・ユア・ラヴ・イン・ヴェイン』を唯一の新曲として
唄ってくれていたのも聴き逃せません。
さらに、最高なのがこのアルバム・ジャケットです。
アップの、やたらとカッコいいディランの写真が良いです。
アルバム『激しい雨』に匹敵する、どアップの写真に並ぶ秀逸さ。
ボブ・ディランって割と自身の顔をドーンとジャケットに使うことが多いのですが、やはり、「俺はカッコいいぞ」との自覚がある人なのかなぁと思います(笑)。
昔も今も、モテモテなのが、わかる気がします。
それにしても、あれだけ多くのライヴを観に行っていた大学時代…何でボブ・ディランの初来日公演を観に行かなかったのかなぁ。
1976年に一度だけ来日したフランク・ザッパと1978年のボブ・ディランの来日公演。
この二大アーティストの初来日を目撃しなかったのは、至極残念なことなのであります。