今年8月16日、“クイーン・オブ・ソウル”──アレサ・フランクリンが亡くなりました。76歳でした。
何年か前にディヴィッド・リッツという人が書いた500ページ以上に及ぶ、
アレサ・フランクリンの半生を描いた「リスペクト」なるハードカバー本を買ったのですが、あまりの厚さに、その内暇になったら…なんて、しばらく本棚に積んでおいたままでした。
半年ほど前からそれを少しずつ読み始め、ちょうど半分くらい読んだところで、アレサの訃報だったので……かなり驚きましたね。
すぐにでもアレサのことを書きたかったのですが、あまりのショックで、なかなかその気になりませんでした。
この「リスペクト」なる本のベースにあるのは、彼女のパワフルな歌とは対極にある、あまりにも繊細で、か弱く、臆病な彼女の姿でした。
大好きなアルバム『貴方だけを愛して』の威風堂々たる唄いっぷりの彼女と比べると、あまりにも大きなギャップでした。
アメリカを代表する、最も偉大な、言わば国民的歌手である彼女が最も輝いていたのが
60年代後半から70年代中盤の約7~8年。レーベル的に言うと、アトランティック時代ということになりますが、
それ以降の作品には、時代に寄り添った感があり、“クイーン・オブ・ソウル”とは言えない時期も長かったのも事実です。その頃のドタバタ劇──スキャンダラスなことや、マネートラブルなどが「リスペクト」の多くの誌面に費やされていたのも、何だか切ない感じでした。
アレサは、まるでスポーツ選手のようでした。キャリアは長かったけれど、とてつもなく輝いたのは、心身共に充実し成績もグングン伸びるというような時期は短かったと思います。
まさにアスリートのような黄金期、アトランティック時代の約7~8年間にリリースした作品やライヴ・パフォーマンスへの評価に対して与えられた称号が“クイーン・オブ・ソウル”なのだと思います。
しかし、アトランティックの次に移籍したレーベル、アリスタ時代にも、カーティス・メイフィールド、ルーサー・ヴァンロスらと組んで制作したものの中にも良い作品もありますが、アトランティック時代のキラキラと輝いた、なお且つパワフル&スイートな歌声、
あの、ほとばしるパッションに追いつけるものはありません。
アトランティック時代の幕開けは67年にリリースした『貴方だけを愛して』でした。
以降、68年の『レディ・ソウル』『アレサ・ナウ』、69年の『ソウル69』、
70年の『ジス・ガール』『スピリット・イン・ザ・ダーク』、
そして71年のライヴ盤『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』と、
信じられないくらいのハイペースで素晴らしいアルバムを立て続けにリリースし、
いずれもヒットしています。どれもこれも本当に素晴らしい。
南部系ソウルをベースとしていますが、適度にゴスペル、適度にジャズ、そしてこの時期の何よりも特徴的なのは、白人層にも受け入れられるようなポピュラリティー溢れる、黒人、白人関係なく、他者のカバー曲を多く取り入れつつも、そのどれもがアレサの歌=“クイーン・オブ・ソウルに昇華されています。
そんな名作の多い中、一枚を選ぶとなると、彼女のスタイルの礎となった、『貴方だけを愛して』ということになるでしょうね。
一曲目がオーティス・レディングのカバー『リスペクト』、2曲目の『涙に濡れて』はレイ・チャールズ、
そしてラストの10曲目がサム・クックのカバー『ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム』なのですから…。
オーティス、レイ、そしてサム・クックら大御所御三家の名曲カバーを一枚のアルバムに治めるなんて、当時の彼らの存在感からして、とても怖くてできるものじゃありません。
特に『リスペクト』は本家オーティスも、「盗まれた!! でも、これには参った」と讃辞を送ったという見事なテイク。
でも、ここでの最大の聴きものは6曲目の『ベイビー・ベイビー・ベイビー』です。
ピアノとシンプルなリズム隊、そして重厚なコーラス、そこに、アトランティックと言えば、泣きのブラス──ディープ&メロウ・ソウル、珠玉の一曲です。
アレサの堂々たる唄いっぷりは本当にお見事です。これ一曲でも『貴方だけを愛して』は買いです。
『貴方だけを愛して』を含むアトランティック時代のアレサのアルバムは、彼女の人生に於いて最も光り輝いている奇跡のような作品群ばかり。
ダイアナ・ロスだってジャネット・ジャクソンだって和田アキ子だって…アレサのこの才能に嫉妬し、そして、私だって…と頑張ったからこそ、今に至るスイート・ソウル・ミュージックがあると思うのです。
アレサ、お疲れ様。いい作品を沢山残してくれてありがとう!!
天国で安らかに。