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棚橋和博音楽コラム 僕にとってのロック名盤八十八作品

【第15回】『ドゥ・ライト・マン』ダン・ペン

マッスル・ショールズ4人のミュージシャンと共に、 黒人シンガーの活躍の場を広げた天才ソングライター、ダン・ペン

  • 情報掲載日:2018.09.21
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
『ドゥ・ライト・マン』
『ドゥ・ライト・マン』

ダン・ペンは1941年、米アラバマのヴァーノンというところに生まれた白人です。
彼はソングライターですが、自ら歌を唄うシンガーでもあります。
彼の作った曲を、ジェームス・カー、アレサ・フランクリン、
ウィルソン・ピケットら黒人がこぞってレコーディングをし、
かなりの確率で大ヒットをしています。しかも、唄った人が、
R&Bアーティストの中でも、大御所が多いので、
ダン・ペンって黒人じゃないの? と思っている人も少なからずいるようです。

何故彼の曲がそんな大御所に唄われることになったかというと、
彼のルーツと、その後の彼の環境がアシストしたと言えるでしょう。
彼が初めて音楽に接したのが、父親に連れて行かれた教会で聴いたゴスペルでした。
そもそも彼の父親や祖父は教会のソング・リーダーを務めていたということで、
教会での活動は彼にとって、他の誰よりも、より身近なものだったということでしょう。
のちにギターを持ち、さらに作曲をするようになります。

そんな彼は、のちにアラバマのシェフィールドにある、
マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオのお抱えソングライターとなります。
マッスル・ショールズはギターのジミー・ジョンソン、ピアノのバリー・ベケット、
ベースのデヴィッド・フッド、ドラムのロジャー・ホーキンス、4人のミュージャンと、
マッスル・ショールズの前身となるフェイム・スタジオを作ったリック・ホールと
共に作り上げたスタジオです。フェイム・スタジオにはアトランティック・レコードに所属
しているアーティスト──アレサ・フランクリンやウィルソン・ピケットら多くが
レコーディングに訪れていました。マッスル・ショールズと言えば、サザンソウルの聖地
とも言われますが、先に触れた4人のミュージャンは全て白人。でも、レコーディングに訪れる
アーティストは、ほとんどが黒人であり、のちにポール・サイモンやストーンズも、
そのソウル・クルーヴが欲しくて、マッスル・ショールズに訪れています。
何も知らない人が聴いたら、マッスル・ショールズの看板バンドの4人は、
全て黒人だったと思ってしまうほど、そのプレイにはソウルが宿っていました。
その中で、ソングライターとして頭角を表したのが、この、ダン・ペンです。
4人のミュージャンもそうであったように、ダン・ペンの書く曲は、
ゴスペルやR&Bをルーツに持つソウル・フレーバーがあり、しかも、
メロディそのものが実にメロディアスであり、人の心を掴んで離さない情緒がありました。
特にチップス・モーマンやスプーナー・オールダムとの共作曲は見事なものばかりです。

さて、そんなダン・ペンですが、遅まきながら、1973年にアルバム『ノーバディーズ・フール』
でソロ・デビューを果たします。タイトル・ソング『ノーバディーズ・フール』、
『レイニング・イン・メンフィス』『タイム』『アイ・ヘイト・ユー』と、
サザン・ソウルに少しのカントリー・フレーバーをふりかけた粒揃い&感涙の曲が並びます。
しかし、このアルバム、リリースされたもののあまり売れず、暫くは入手困難でした。
そんなソロ・デビューの失敗もあり、彼が次のアルバムを作ることは20年近くありませんでした。
しかし、1994年、突如リリースされた彼の2ndアルバムが『ドゥ・ライト・マン』です。
何とこの作品、彼がこれまで様々なアーティストに提供した、
セルフ・カバー曲メインで構成されたアルバムでした(新曲も2曲入っています)。

『ノーバディーズ・フール』
『ノーバディーズ・フール』

ジェイムス・カーに提供し、アレサ・フランクリンやライ・クーダーら多くのミュージシャンにカバーされた
『ザ・ダーク・エンド・オブ・ザ・ストリート』。アレサ・フランクリンに提供し、
こちらもデラニー&ボニーやフライング・ブリトー・ブラザーズなど、これまた
多くのミュージャンにカバーされた、
『ドゥ・ライト・ウーマン、ドゥ・ライト・マン』
ジェームス&ボビー・ピューリファイの『アイム・パペット』などなど、
それら全ての提供曲を作者であるダン・ペンが唄い、そして、
マッスル・ショールズのジミー・ジョンソン、デヴィッド・フッド、ロジャー・ホーキンス、
そして曲作りの相棒である、スプーナ・オールダムらが演奏に参加しています。
ダン・ペンは、決してシャウトするようなソウルフルなヴォーカルではなく、
何とも包容力のある歌で聴き手を包み込むのです。
曲のメロウさもありますが、もう、聴いていて、
これほど幸せを噛みしめられるアルバムはありません。
ダン・ペンと言えば、1stの『ノーバディーズ・フール』を挙げる人がほとんどでしょうけど、
僕はやはり、彼のソングライティングの素晴らしさと、そのオリジネーターとしての、
歌の解釈が味わえる、この2ndの『ドゥ・ライト・マン』を一番に挙げます。

さて、ダン・ペンですが、
2000年に『ブルー・ナイト・ラウンジ』
2008年に『ジャンクヤード・ジャンキー』
2013年に『アイ・ニード・ホリデイ』
2017年に『サムシング・アバウト・ザ・ナイト』
という、デモ集というか、新作というか、その半々くらいの質感のアルバムを
割とコンスタントにリリースしてくれています。
何だか、ゆったりと音楽を楽しんでいる感じのする好盤ばかりですよ。

『ブルー・ナイト・ラウンジ』
『ブルー・ナイト・ラウンジ』
『ジャンクヤード・ジャンキー』
『ジャンクヤード・ジャンキー』
『アイ・ニード・ホリデイ』
『アイ・ニード・ホリデイ』

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