ビートルズでもストーンズでもない。僕にとって最高のロックバンドは、ザ・バンドです。
ザ・バンドは1967年に活動をスタートし、1976年11月25日、
サンフランシスコのウィンターランドのライヴで解散しました。
ボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリソンら、
彼らと縁のある豪華ゲストを迎えての解散ライヴでした。
このライヴは、「タクシードライバー」「ニューヨーク・ニューヨーク」「レイジング・ブル」など、
ロバート・デ・ニーロを主演とした映画をはじめ、数々のヒット作を持つマーチン・スコセッシが、
この日のライヴを監督として映像収録しました。それが、『ラストワルツ』です。
マーチン・スコセッシ監督はロック好きで知られ、
ローリング・ストーンズ の「シャイン・ア・ライト」、
ボブ・ディランの「ノー・ディレクション・ホーム」、
ジョージ・ハリスン「リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」など、
大物のドキュメンタリー映画を撮っています。
この『ラストワルツ』ですが、公開から40年経ってリマスターされ
再び今春、全国でロードショー公開をされました。音楽映画としては珍しいことです。
日本の初公開は1978年7月でしたが、ラッキーなことに、
公開前に、この『ラストワルツ』を試写会で見る事ができました。
僕は当時、大学3年生。ザ・バンドに最も熱を上げていた頃でしたから、
貴重な映像を誰よりも早く見れて大興奮でした。
当時、大学近くの千葉の柏で暮らしていましたが、その頃僕は、
新星堂というスポーツ店でアルバイトをしていました。
隣に同じく新星堂のレコード店もあり、そこのスタッフのみんなには、
随分お世話になりました。そのスタッフから『ラストワルツ』の試写会のチケットを
頂いたのです。嬉しかったなぁ。
試写会に行くと、これまたラッキーなことに夕焼け楽団の久保田麻琴さんとサンディさんが
僕の隣の席に座りました。久保田さんが音楽雑誌で、
この、ウィンターランドでのライヴを実際に見たと書いていたのを思い出し、
失礼ながら、「生でご覧になったんですよね?」とお聞きすると、
「そう、ひょっとして僕が映っているかもしれないよ(笑)」等々、話に付き合ってくれました。
久保田麻琴と夕焼け楽団の『ラッキー・オールド・サン』あたりは今でも好きでよく聴きます。
上映が始まり、しばらくすると久保田さんが、「もっとボリュームを上げてくれ!!」
と大きな声で叫んだのでびっくりしました。
拍手こそなかったものの、僕もそう思っていたので、何だか嬉しかったですね。
僕がザ・バンドをリアル・タイムで聴いたのは、
1972年にリリースした2枚組のライヴ・アルバム『ロック・オブ・エイジス』でした。
それ以前にもヒット曲『ザ・ウェイト』を聴いたことはあったのですが、
何だか田舎くさいというか、泥くさい感じの、モタモタしたナンバーで、
最初の頃は、その良さがわかりませんでした。
でも、『ロック・オブ・エイジス』のキレのあるR&Bをルーツに持つロックンロールは、
僕をゾクゾクさせましたし、
アラン・トゥーサンがアレンジしたブラスが入ったテイクなどは、
ロックの深みというものを僕に教えてくれた作品です。
遡ってザ・バンドのオリジナル・アルバムは勿論、
個々のメンバーが参加した数々の作品を漁るに至ります。
そこで、イギリスでもアメリカでも、いかに彼らに影響を受け、
ザ・バンドになりたいとの思いを抱いたバンドやアーティストがいたことに驚きました。
当時から、ザ・バンド風の作品が実に多かったのです。
ザ・バンドはドラムのリヴォン・ヘルムが唯一のアメリカ人で、
他の4人は全員カナダ人です。ジャズ、カントリー、フォーク、R&B等を見事に吸収し、
俺達こそ、アメリカを代表するロックバンドなんだという志を持った
稀有なバンドだと思います。ボブ・ディランが幾度となく彼らをバックバンドに起用したのも、
ザ・バンドから吸収するものが得難いものだと気づいたからでしょう。
ディランとの共演作『プラネット・ウェイヴス』、
ライヴ盤『偉大なる復活』なども必聴です。
さて、ザ・バンドのオリジナル・スタジオ・アルバムですが、
『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』
『ザ・バンド』『ステージ・フライト』
『カフーツ』『ムーンドッグ・マチネー』
『南十字星』『アイランド』の7枚があります。
どの作品にも思い入れがありますが、敢えて一枚を選ぶとするならば、
1975年にリリースした──彼らの歴史の中でも後期にリリースされた
『南十字星』を僕はダントツの一位に挙げます。
まず、全編を通して、曲そのものの出来がいいということ。
アレンジジャンルが多岐に渡っていて、それぞれルーツミュージックをリスペクトし、
さらに芳醇な香りがするということ。
そして、何よりも魅力的なのは、その曲に合わせたヴォーカリストとの相性がいいこと。
リチャード・マニュエル、リヴォン・ヘルム、リック・ダンコという、
三枚看板のヴォーカリストを持つ、ザ・バンドの魅力炸裂振りが、他の作品とは比べものにならないのです。
多分、ザ・バンドのメイン・ヴォーカリストはリチャード・マニュエルだという人が多いと思います。
僕もそれに異論はありません。彼の唄う2曲目の『ホーボー・ジャングル』は聴く度に涙腺の緩む見事なテイクです。
でも、リヴォン・ヘルムの唄う3曲目の『オフェリア』、
リック・ダンコが唄う6曲目の『同じことさ!』も素晴らしい──それぞれの魅力炸裂です。
アルバムの冒頭を飾る『禁断の木の実』で聴ける、ギター、ロビー・ロバートソンの、
アームを使ったぐにゃぐにゃギターは、彼にしか弾けないプレイだし、
キーボードのガース・ハドソンが大活躍する7曲目の『ジュピターの谷』など、
本当に捨て曲が一切ない、完璧なアルバムだと僕は思うのです。
現代では当たり前になったコンピュータを使ったデジタル・ミュージックとは対極にあり、
若い人にとっては、どこか田舎くさいロックかもしれません。
しかし、一度ハマったら抜けられない、アメリカのルーツミュージックを昇華した、
最強のバンドがザ・バンドなのです。
さて、冒頭で紹介した『ラストワルツ』公開の頃、
ザ・バンドはライヴ活動はしないものの、再び定期的にスタジオ・アルバムをリリースしていく
という情報が流されました。しかし、1977年にリリースされた『アイランド』以降、
5人による作品は制作されることはありませんでした。
メンバー全員ソロ活動を順次始め、
初めて日本の地を踏んだのがベースのリック・ダンコです。
続いてドラムのリヴォン・ヘルムはスティーヴ・クロッパーや
ドナルド・ダック・ダンらとRCOオール・スターズを結成し来日しました。
憧れのザ・バンドのメンバーのソロであり、しかも初来日ですから、
僕は両者の公演を見に行きました。特に、リヴォン・ヘルム率いるRCOオール・スターズの
ライヴは素晴らしかったです。
それ以降、ギターのロビー・ロバートソン抜きでザ・バンドは再結成され、
アルバム『ジェリコ』をリリースしザ・バンドとして初来日します。
勿論見に行きましたが、ロビー・ロバートソンのギターの音がしない、
ザ・バンドは、ザ・バンドではなかったのが寂しい限りでした。以前から
ロビー・ロバートソンと他のメンバーとの確執があったようで、今でもそれが残念でなりません。
でも、リチャード・マニュエルとガース・ハドソンの2人を生で見れたのは嬉しかったですねぇ。
リチャード・マニュエル、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムの3人は相次いで亡くなってしまいました。
ザ・バンドの曲を唄う人が誰もいなくなってしまったのです。
ギターのロビー・ロバートソンはソロで何作もアルバムをリリースしていますが、
どれもがパッとしない出来です。そういった意味でも残念で仕方がありません。
解散コンサート『ラストワルツ』はロビー・ロバートソンと監督のマーチン・スコセッシ監督が
企画し映画化したものです。他のメンバーは当時の5人でザ・バンドとしての活動を続けたかったようですが…。
『ラストワルツ』という映画では5人のザ・バンドのライヴが観れて嬉しいのですが、
見る度に、何だか複雑な気持ちになる、切ない映画です。
ザ・バンドが残したオリジナル・アルバムは、
どれもが家宝のような輝きを今もなお放っています。
未だ未聴の方がおられたら、是非、聴いてみて下さい。
また、デビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』の
50周年記念エディション盤が今年8月末にリリースされました。
ベテラン・アーティストのこの手の記念盤リリースは、コアファンや、
特に高齢のお金に余裕のある聴き手を対象としてリリースされるケースが多く、
また、様々なバージョンでリリースされることがほとんどです。
この、『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』の50周年を記念エディション盤も、
色々なバージョンが出ていますが、高いものは17,000円くらいします。
オリジナルの4トラック・アナログ・テープから、
ボブ・クリアマウンテンが新たに作ったステレオ・ミックスを収録したり、
貴重なアウトテイクが収録したりと貴重なものが多いのですが……素直に喜べません。
音楽業界不況だからか、高齢者をターゲットとしたこの手の商品リリースに疑問が残るのです。
僕は『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』のアメリカ盤のアナログと何枚かのCDを
持っていますが、音がクリアになった最新のCDを聴いて違和感を持ちました。
『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』の魅力は、
音のクリアさなどではなく、ずしんと重い音のかたまりこそが魅力だと思うからです。
それはザ・バンドの全てのアルバムに言えることです。
やはり、リリース当時のアナログ盤で聴いてこその彼らの音楽だと僕は思います。