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棚橋和博音楽コラム 僕にとってのロック名盤八十八作品

【第14回】『イーグルス』イーグルス

世界で最も売り上げたレコード・ホルダー、イーグルス。 実はデビュー作から凄かった、他のバンドとは一線を画す才能と戦略

  • 情報掲載日:2018.09.14
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
『イーグルス』
『イーグルス』

さて、今回は大メジャーなバンド、イーグルスです。
今年8月20日、全米レコード協会はイーグルスのベスト・アルバム
『グレイテスト・ヒッツ1971-1975』の米国内での売り上げが、
3,800万枚を突破し史上最高になったと発表しました。
このアルバム、かつては首位だったのですが、
2009年に急死したマイケル・ジャクソンの弔い特需により、
『スリラー』にその座を明け渡していましたが、
協会が近年主流であるストリーミング配信カウント等も反映したところ、
これまで2,900万枚の数字が一気に900万枚分プラスされ、
この、3,800万枚という数字になった模様。恐るべし、アメリカです。

『グレイテスト・ヒッツ1971-1975』
『グレイテスト・ヒッツ1971-1975』

さて、この、『グレイテスト・ヒッツ1971-1975』ですが、
ここに彼らが世界的大ブレイクを果たした、あの、
『ホテル・カリフォルニア』を含む、それ以降の
曲は含まれていません。ここが、実はミソです。
ここにはデビュー作『イーグルス』、2ndアルバム『ならず者』
3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』、4th『呪われた夜』の4作から
選りすぐった全10曲が収録されています。
4thアルバム『呪われた夜』から正式メンバーとして迎えられた、
ギターのドン・フェルダー加入によってロック色を増したものの、
やはり、初期の、米西海岸をイメージする、
サウンドアプローチ──つまり、カントリー色がベースにあるロックが、
アメリカ人にとって大好物だというのがわかります。
曲で言えば、『テイク・イット・イージー』『いつわりの瞳』
『テキーラ・サンライズ』『ピースフル・イージー・フィーリング』
あたりでしょうか。

2ndアルバム『ならず者』
2ndアルバム『ならず者』
3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』
3rdアルバム『オン・ザ・ボーダー』
4thアルバム『呪われた夜』
4thアルバム『呪われた夜』
5thアルバム『ホテル・カリフォルニア』
5thアルバム『ホテル・カリフォルニア』

さて、このイーグルスですが、僕は、
デビュー・シングル『テイク・イット・イージー』から、
リアルタイムで聴いていました。このシングル曲に
続く2ndシングル『魔女のささやき』も、
日本でもそれなりにヒットしましたからね。
グレン・フライがリード・ヴォーカルを取る、
また、コーラスが素晴らしい軽快なカントリー・ロック『テイク・イット・イージー』。
ドン・ヘンリーの唄う『魔女のささやき』は、太古のリズムで聴かせる、
ちょいダークなブルージーな曲。これもコーラスがお見事です。
この2曲を含むデビュー・アルバム『イーグルス』ですが、
本当に、擦り切れるほどよく聴きました。ちょうど日本では雑誌ポパイが創刊され、
いわゆる西海岸やハワイという米文化に対する憧れを当時の僕ら高校生は強く抱いていましたから、
そこにピタリとマッチするロックがイーグルスのこのファーストだったのです。
今思うに、カントリーやブルーグラスといったテイストを武器とした
ロックバンドはいるにはいました。但し、我々が望んだのはスケボーであり、
ワークシャツにダウンベスト、足に履くのはナイキやアディダスのスニーカーでした。
決してテンガロンハットを被ったおっさんがご機嫌にバンジョーを奏で、
「ヒーハー!!」と雄たけびあげるようなカントリー&ウェスタン系ロックではなかったのです。
フライング・バリット・ブラザース、バーズ、
ポコなどはイーグルスに匹敵する技術を持つ素晴らしいバンドですが、
世界的な人気を獲得出来なかったのは、それらのルーツミュージックの呪縛から、
逃れられなかったからだと思います。
イーグルスがデビュー当時から、ポパイなどを読んでいた、我々にフィットしたのは
伝統を敵度に押さえつつ、いかに最新のロックを作り上げるか、
というプロデュース能力に長けていたからに他なりません。
これはあとあと知ったのですが、実はこのデビュー作、アメリカの西海岸などではなく、
ロンドンのオリンピック・スタジオでレコーディングされたものでした。
ビートルズやストーンズ、ツェッペリンなど、新しいロックはイギリスから発信されることが殆どでした。
かのジミ・ヘンドリックスもイギリスに渡り逆輸入の形で成功を掴みました。
このデビュー作のプロデュースを手掛けたのがグリン・ジョーンズです。
ビートルズやストーンズ、ツェッペリン、ザ・フー、キンクス、
フェイセズなどイギリスの主だったロック・バンドのレコード制作に携わった達人です。
イーグルスはローラ・ニーロを発掘しマネージャーとなったデヴィッド・ゲフィンが
立ちあげたアサイラム・レコードの第一弾的なバンドでした。デヴィッド・ゲフィンが、
まさにアメリカ的なバンドであるイーグルスを、他のバンドとは一線を画したくて
ロンドン・レコーディングやグリン・ジョーンズの起用を企てたのかもしれません。

さて、デビュー以降もイーグルスは順調に成長して行きます。
『呪われた夜』以降、カントリー・テイストを担っていたギタリスト、
バーニー・リードンの脱退、その後釜としてジェームス・ギャングのジョー・ウォルシュが加入し、
一気にバンドはロック色を強め、遂には『ホテル・カリフォルニア』を完成させ、
世界的な大ブレイクを果たすのです。この辺のことは、ロック好きな人なら耳タコな話ですよね(笑)。

僕はイーグルスの中では『テイク・イット・イージー』『ピースフル・イージー・フィーリング』
『テキーラ・サンライズ』でリード・ヴォーカルを取る、グレン・フライが大好きです。
軽やかな唄いっぷりなのに、決して能天気ではない、適度なソウル・フレーバーと緊張感があり、
彼のこのテイストこそ、イーグルスそのものだと思っているからです。
彼のそんな歌がみんな好きだからこそ、『グレイテスト・ヒッツ1971-1975』は、
世界1のセールスを記録できたのだと思います。そんなグレン・フライですが、
2016年1月18日、リウマチ性関節炎や肺炎による合併症で帰らぬ人となりました。67歳の若さでした。

イーグルスは一時期解散し、1994年に再結成しライヴを中心に活動していました。
グレン・フライ亡きあと、その動向が気になっていましたが、新メンバーを加え活動を再開しています。
昨年7月、ロスのドジャース・スタジアムでのライヴでは、
何と、グレン・フライの息子、ディーコン・フライがゲストに出て、
『テイク・イット・イージー』『ピースフル・イージー・フィーリング』等を唄ったのだとか。
ファンの涙腺は崩壊したことでしょう。見たかったなぁ。

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