「次の原稿を書く頃までには、上昇気流に乗って、新潟のスタイルを感じさせてほしいなと思っている今日この頃である」
電撃的な監督交代で、吉永体制となったアルビだが、1勝1敗2分と波に乗れていない。特に直近の長崎戦はひどい出来で、多くのサポーターを失望させた。
サッカーは明らかに変わった。引いた守りから縦に長いボールを入れる戦法から、サイドバックをワイドに広げ、自陣からも良いテンポでパスを繋いでくる。各選手の距離感も比較的近く、ゴール前で、数人が絡む形で、細かいパス回しからゴールを決めるシーンなど久しく見ていなかった気がする。
また、このようなボールを保持する戦術はディフェンス面でも効果を発揮し、山口戦の前半などは、プレスがよくかかり、相手のミスも多かったとはいえ、面白いように前からボールを奪えた。
ただし、今のところ、結果が出てこない。
特段、失点が多いわけでも、点が取れていないわけでもない。
メンバーの入れ替えは、片渕体制で不動のレギュラーだった渡邊泰基が外れ、新井がそこに入る形で、センターバックが流動的になっていること。前線も田中、矢野の両ベテランが控えに回り、ブラジル人コンビを据えていることぐらいか。
あとは、コンディションを見て、ベンチ入りメンバーを頻繁に変え、チームの競争力を促している印象がある。ただし、起用法を見ている限り、吉永体制でも、不動と言えるのは、ほんの一握りの選手のような気がする。
チャンスはそれなりに作れているだけに、決めきれないのがもどかしい。
先月も嘆いた気がするが、2列目の渡辺凌磨がチームの事実上のトップスコアラーでは寂しい。
かつてのマルクスに代表されるように、厳しいJ2リーグで勝ち抜くには圧倒的なエースが必要だ。
まさかの途中補強があるのか、ブラジル人コンビの覚醒を待つのか。気がつくとリーグも1/3が消化されているだけに、あまり悠長に構えている余裕がないところだ。
月並みな言い方だが、真価を問われるのはこれからだということだろう。
そういうわけで、決して皮肉で言うわけではないが、今季の目玉「メソッド部門」について、私自身よくわからなくなってきている。
新潟のプレーモデルを確立し、アカデミーから一環して同じサッカーを展開するはずだが、トップチームが迷走し、かつ、結果も出ない状態では、進むべき方向がわからないのではないか。
プレーモデル自体、当然チームの顔であるトップチームから降りてくるものであって、決して、会議室から指示されるものでもないはずだから。
その点、今季のヨーロッパリーグのハイライト、チャンピオンズリーグの準決勝バルセロナvsリバプールの試合は、異なるフィロソフィーを持つクラブチーム同士の、極上の、文字どおりの頂上決戦だった。
特に、グアルディオラとともに現代サッカーの潮流を生み出しているクロップに率いられたリバプールは、勝利にふさわしいパフォーマンスを見せる。
フィールドプレーヤー全員のインセンシティーの高さ、戦術の実行力。カンプノウでの初戦では、それをいなすバルセロナの姿も見られるが、百聞は一見に如かず、DAZNの環境にある人は、まだ試合が見られるので、ぜひ体験してみてほしい(ハイライトではなく)。
現時点でのサッカーの最先端と、サッカーのプレーモデルとは何かがしっかりと伝わるはずだ。
個人的に、ボールを動かしながら、穴を見つけ、厚い攻撃を仕掛けるサッカーは好きである。
でも、それが新潟の個性かというと、残念ながら私の力量では感じにくい。
もちろん、先ほども言ったとおり、そういうものは、上から押し付けられるものではなく、時間と結果を経て自然と感じてくるものだと思っているので、我ながら矛盾していることは重々承知の上なのだが、このモヤモヤを晴らすためにも、なんとか、次の原稿を書く頃までには、上昇気流に乗って、新潟のスタイルを感じさせてほしいなと思っている今日この頃である。
【浅妻 信】
新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中