「僕にとってのロック名盤八十八作品」なるコラムの第二回目です。
何で八十八作品なのかって? それは、末広がりで縁起がいいのと、
百作品だと、雑誌企画によくある、ざっくりとした区切りだし…。
それでも88作品というのは随分多い…いや、少ないのか?
とにもかくにも、自分が良いと思う音楽作品のことを書き綴っていこうと思います。
さて、今回取り上げるパンチ・ブラザーズの『燐光ブルース』ですが、
僕がここ1~2年で最も多くターンテーブルに乗せたレコードです。
このアルバム、アメリカでは2015年1月にリリースされ、
日本では2016年7月20日にリリースされました。つまり、
本国でリリースされてから1年半も日本でリリースされなかったのです。
やっぱり、「売れない」と思われたのかなぁ…。
このアルバムの一曲目を飾る『ファミリアリティ』は10分を越える大作ですが、
この曲を聴きたくなって何度も何度も針を落としつつ、でもって結局、
レコード全部を聴いてしまうという、飽きの来ない万華鏡のようなアルバムなのです。
このバンドが奏でる音楽ジャンルは何かと言うと、うーん…何かに括るのが難しいのですが、
メンバーの持つ楽器が、マンドリン、フィドル、バンジョー、ベース、ギターと、
いわゆるブルーグラスとかカントリーという、昔からよくあるアメリカのトラッドミュージックとも
言えるジャンルだと思うのですが、そのジャンルによくある懐かしさとか古臭さというのが、
一切ない、新しいロック・ジャンルと言えなくもないのです。
あの、カントリーの持つ、汗臭い感じやアメリカ臭というものが一切ありませんからね。
あれはあれで、そこが魅力なんですけどね。勿論、嫌いじゃありませんよ。
パンチ・ブラザーズというのも、吉本的なバタ臭い名前ですが、
でも、それはそれでストレートな感じで僕は好きなんです。最初は笑ったけど(笑)。
メンバー5人全員が唄えてコーラスが完璧だというのと、
個々の楽器テクニックが、超絶に巧い。けど、それら技術を誇示するようなバンドではなく、
まぁ、何気に凄いことをさらりとやっとのけつつ、実にドラマチックにそれぞれの曲を奏でるという、
そんなバンドなのです。世間では“アメリカーナ”なんてジャンルで括られ語られているようですが、
それはどういうジャンルなのか、僕にはあまりよくわかりません。
アメリカでもこのバンドのジャンルが捉えどころがないようで、フォーク・アルバム・チャート4位、
ロック・アルバム・チャート9位、グルーグラス・アルバム・チャート1位と、
複数のジャンル・チャートの上位に入っています。
まぁ、新しいジャンルだけれど、きっちりとルーツを押さえていることにより、
「こいつら、なかなかやるなぁ」と、大人にも支持されたんじゃないでしょうか。
アメリカという国では、カントリーが言わば日本の演歌みたいなものですから、
そこに真っ向勝負で食い込んだロック・バンドというのもありそうでなかったですからね。
昔で言えばザ・バーズとかグレイトフルデッドが、そのジャンルに寄り添った感はありましたが、
パンチ・ブラザーズほどの新しさはなかった気がします。
とにかく騙されたと思って一曲目の『ファミリアリティ』をはじめ、
彼らの音を一度聴いてみて下さい。
さて、この、パンチ・ブラザーズの顔とも言えるマンドリン奏者、クリス・シーリーに何と言っても注目です。
もともと、ニッケル・クリークというトリオ・バンドで若い頃から活動していて、
ヒット曲もかっ飛ばしていました。当時から聴いてはいましたが、パンチ・ブラザーズのレベルには
到達してなかったですね。解散後、ソロ活動とパンチ・ブラザーズの活動を並走してきたわけですが、
彼の近年の活動歴は凄まじいものがあります。ジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーとアルバムを作り、
さらに、チェリストのヨー・ヨー・マ、コントラバスのエドガー・メイヤーとのトリオでバッハのアルバムを作るなど、
ジャズ、クラシックと、トライする音楽ジャンルをガンガン広げています。ちなみにクリス・シーリーは37歳。
また、バンジョー奏者、ノーム・ピクルニーもソロ・アルバム『Universal Favorite』を
リリースしたりと、クリス・シーリーに続けと頑張っています。
しかし、やはり、本体、パンチ・ブラザーズの新作が待ち遠しくて仕方ありません。
マイク一本で繰り広げるライヴ・パフォーマンスもカッコいいし、
とにかく、今のアメリカの要注目バンドのひとつと言っても過言ではありません。
めちゃくちゃいいので、是非ともチェックしてみて下さい!!