「僕にとってのロック名盤八十八作品」なるコラムの第3回目です。
多分、ここで取り上げる(ことになる)アルバムの中で最も地味な作品であり、
無名のバンドかもしれませんが、長年愛聴しているアルバムなので、
こういう時にこそ紹介せず、いつ紹介するのか? と声を大にして言いたいバンドであり作品なのです。
ジャンルで言えばブリティッシュ・フォーク&ロックになります。
有名なところで言うとフェアポート・コンベンション、ペンタングル、リンディスファーンなる
バンドがいますが、彼らに共通しているのは、やはり英国ということで曇り空とか暗さとか、
時には陰湿な雰囲気が漂っていて、それがまぁ特徴で、その空気感がなきゃダメだというファンも多いはずです。
フェアポート・コンベンションなんかはその最たるバンドで、『フル・ハウス』や『リージ・アンド・リーフ』
など、僕も大好きな名盤を沢山残しています。
さて、そんな彼らと比較をすると、ヘロンには間逆のような瑞々しい明るさがあります。
今回紹介するのは、彼らが1970年にリリースしたデビュー作『HERON』です。
この作品、何と、野外で録音されています。お客さんもいません。でも、
曲間に、ピヨピヨと鳥のさえずりが聴こえたりして、とても幸せな気分になります。
のちに彼らの音楽は、“木漏れ日フォーク”なるジャンルで語られることになるわけですが、
まさに、今、このコラムを書いている6月中旬の初夏の午後とか、
公園のベンチで寝っ転がりながら聴くには最適のアルバムだと思います。
ブリティッシュ・フォーク&ロックの作品には数多くの名盤がありますが、
これほど、心が穏やかになれる作品は見当たりません。奇跡の1枚だと断言します。
収録されているのは全13曲で、どの曲も派手さは皆無。演奏やコーラスもシンプルでいいのですが、
技術的に特に秀でているとは言い難い彼らですが、アルバムには捨て曲がひとつもなく、
どれもメロディの美しさに心を奪われる──それに尽きるでしょうか。
さて、このヘロン、デビューしてから45年以上経って、
デビュー当時のメンバー4人で2016年に初来日を果たしました。
本国よりも、ここ日本で最もアルバムが売れていて(と言っても大した数じゃないでしょうけど)。
ファンも多かったというのと、メンバーも高齢になってきて、なかなか海外にツアーに行けないから、
どうせなら応援してくれる日本のファンの為に…と重い腰を上げてくれたようです。
勿論、この機会を逃すまいと東京・下北沢ラ・カーニャでのライヴを見てきました。
巧さを売りにしているバンドではないですから、音程に不安低さがあったり、
演奏をやり直したり、色々諸問題はありつつも、それでも長年愛聴し続けてきたバンドの
作品を生のライヴで見れたことは実にラッキーでした。
この来日時の京都公演が『ライヴ・イン京都』というライヴ盤でリリースされています。
アルバム『HERON』からのナンバーも多く演奏されています。
ライヴが終わった後に招聘主催者であろう人に、「こんなマイナーなバンドを呼んでくれてありがとう」
と感謝の意を伝えると、「はい、もう、次の来日は年齢的に叶わないかもしれませんからね(笑)」と
言っていたのが印象的でした。そんな来日決定時のニュースは以下のアドレスからどうぞ。
さて、ヘロンですが、『HERON』以降も、地味かつ淡々と作品をリリースし続けていました。
一時解散したり再活動があったものの再び活動休止をしたりしつつ、今は彼らなりのペースで活動を続けていますが、
近年、『ジョーカーマン』なる全曲、ボブ・ディランの作品をカバーした
アルバムをリリースしています。
“木漏れ日フォーク”と言われるバンドがどんな風にディランの
作品をカバーしているのか?
興味のある方は、是非その耳でお確かめ下さい。
ちなみにアルバム『HERON』の英国オリジナル盤=レコードは、
状態の良いものだと、何と、7~8万円くらいはします。勿論、レコードの音は良いのですが、
そんな大金を使う必要はありません。
近年、CDでリリースされ、アナログ盤もリイシューされましたが、
早々に廃盤となっていました。しかし、来日に合わせて紙ジャケCDが再度リリースされています。
マイナーなバンドゆえ、いつ入手困難になるかわかりません。
お近くのCDショップになければ、エアー・メイル・レコーディングスさんのウェブサイトで調べてみて下さい。
ちなみに、彼らの2ndアルバム『トゥワイス・アズ・ナイス&ハーフ・ザ・プライス』も、
『HERON』に負けず劣らずの名盤ですよ。