今回は、女性の体調不良の原因としてよく耳にする「更年期」について、先生からくわしく教えていただきました。不調を感じている女性へ、日々の生活でのアドバイスもお聞きしました。
Q.女性が年齢を重ねると、ある時期から急にからだの不調を感じやすくなって、「更年期かな?」と考えたりします。個人差はあると思いますが、この更年期とはそもそもどういうものなのでしょうか?
●髙田:一般的に更年期とは、閉経を迎える前後の年代を指します。日本人女性の平均的な閉経年齢は50歳ですから、その前後5年ずつ、45歳頃から55歳頃までの10年ぐらいの期間が平均的な「更年期」とされています。期間に個人差はありますが、この「更年期」に起こる様々な「からだ」と「こころ」の症状を「更年期症状」と呼んでいます。訴えの多い症状として、ほてりや発汗、めまい、動悸、疲れやすさなどの身体症状と、不眠、不安、イライラなどの精神症状が挙げられます。そのほか、関節痛、頻尿や尿漏れ、陰部のかゆみなども、原因となる身体や臓器に病気がない場合には更年期症状の一つと考えられます。
「更年期だから症状が出る」と思われがちですが、「更年期」が女性のからだに悪さをするのではありません。更年期にみられる不調の最大の原因は、卵巣から分泌される「エストロゲン」という女性ホルモンがどんどん減ってしまうことです。エストロゲンは女性の心身を守ってくれる防護服です。ストレスや過労、睡眠不足などが続いても頑張って働いて来られたのはエストロゲンが守ってくれていたからです。そのエストロゲンの分泌は35歳を過ぎると減少し始めます。40歳以降は急激に減少し、閉経する頃にはゼロに近い値になります。ですから、30代でも心身の不調を訴える女性は多く、これも広い意味ではエストロゲンの低下による更年期症状と捉えることができるのです。
Q.その更年期症状について、どんな治療がされているのでしょうか?
●髙田:治療では、足りなくなったエストロゲンを補充するホルモン補充療法が一般的です。しかし、女性ホルモンは本来、「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があり、子宮の内膜に対しては、これらの分泌バランスが保たれていることが重要です。ですから、(手術で子宮を摘出した場合を除き)エストロゲンを補充する場合にはプロゲステロンもバランスよく投与して月経を起こすことが必要になります。しかし、もともと月経困難症(月経痛が強い)や過多月経(月経量が多い)など月経に関連した症状をお持ちの女性は、ホルモン補充療法を始めると以前の月経に伴った症状が再び出現してしまう可能性があります。また、乳がんや子宮体がんなどエストロゲンにより悪化が心配される病気の既往や家族歴がある女性には、原則として使用できません。さらに、更年期症状は仕事のストレスや家庭環境など、様々な問題が複雑に影響し合って症状を悪化させている場合も多く、単にエストロゲンを補充しただけでは改善しない患者さんもいらっしゃいます。このように、エストロゲン補充ができない、または効果が不十分な場合には、漢方薬など症状を緩和する治療薬を組み合わせて治療をおこないます。
Q.治療に有効だと思われるエストロゲンのお薬が使えない方や、効果が不十分な方がいらっしゃるのですね。その場合にはどのような治療法があるのでしょうか?
●髙田:ホルモン補充療法ができない方や効果を実感できないことなどにより、がっかりされる患者さんは多くいらっしゃいます。しかし、女性ホルモンが少なくなり、閉経に至るというのは本来自然な現象です。「エストロゲンを補充したから安心!」と若い頃と同様に身体にムチを入れて頑張りすぎてしまい、気づいた時には防護服の中で身体はボロボロの状態になっているかも知れません。いつも患者さんにお話するのは、「更年期症状は自分の身体からのSOSなのだ。」ということです。今まで無理がかかっても耐えていたけれど、「そろそろ限界だよ」「このままでは命に関わるような病気になってしまうよ」と教えてくれているのです。自分自身の身体からの声に耳を傾け、日々の生活スタイルや食事の栄養バランスを整えていただきたいとお願いしています。最近増えているのは、「糖質オフによる被害!」です。厚生労働省も警告しています。私の外来でも、心身に不調のある患者の8割は夜にお米を抜いておかずだけの食事を摂っていました。不調から体を立て直すためには材料が必要です。身体も心(脳)も材料は食事です。バランスのとれた食事は薬よりも大切です。私は漢方医療も専門にしていますので、「医食同源」の観点からもお食事の指導は欠かせません。
Q.漢方医療とはどのようなものですか?
●髙田:更年期症状は多彩です。頭痛、めまい、不眠、イライラなどたくさんの症状を併せ持つ女性が大多数です。その症状一つひとつに対する治療(対症療法)を考えると、痛み止め、めまい止め、睡眠薬、向精神薬など数種類の薬が必要です。服薬の数が多くなるとそれだけでストレスになります。
それに対して漢方医学は、精神症状も含め、全ての症状の原因になっている身体の状態を探り、それを「立て直す」ことで治療します。ですから、症状が多数あっても、1剤の漢方薬でその全てが改善に向かう可能性があるのが特徴です。服薬の数を減らせるとともに、お湯に溶いてお茶のように服用すればリラックス効果も得られます。ただし、身体の状態は患者一人ひとりで違うため、友人や姉妹には効果のあった漢方薬が自分にも有効とは限りません。また、身体の状態は日々変化しますので、その時に応じた漢方薬が必要です。きちんと診察を受けて処方された漢方薬を服用しましょう。
Q.先生がご所属の日本女性医学会では、「更年期の治療」について最近の話題はございますか?
●髙田:日本女性医学会では「女性ヘルスケア」の考えから、更年期について多くの女性に正しい知識をもっていただき、『より積極的に向き合う方法を一緒に考えよう』という取り組みをしています。また、ホルモン補充療法の安全性に対する研究データも増え、より安全に治療がおこなえるようになってきました。以前は5年以上のホルモン補充療法で乳がんのリスクが上昇するというデータから、継続は5年までとする考えが主流でした。しかし、エストロゲンの投与方法やプロゲステロンに対する研究が進み、現在は5年以上の継続も考慮されています。骨代謝や脂質代謝へは有益性が高いため、より積極的な使用が推奨されています。現代では女性を取り巻く環境がより多様化しています。更年期症状に対しても、漫然と対応するのではなく個人の状態や環境に合わせた治療へ、シフトチェンジしてきています。
Q.女性の健康において、大豆製品の必要性がメディアでも紹介されていますが、更年期の女性にも役立ちますか?
●髙田:大豆に含まれるイソフラボンは体内で女性ホルモンに似た働き・作用することが知られ、この作用の源はイソフラボンの一つのダイゼインの代謝物のエクオールと考えられています。あたかも女性ホルモンが増えたかのように、ストレスや疲れを感じにくくする効果が期待されます。また、骨密度を保つ効果、皮膚の弾力を保つ効果についても報告されており、更年期女性には欠かせない成分です。さらに大豆イソフラボンの良いところは、女性ホルモンの悪い作用を少なくできることです。少し難しい話になりますが、ホルモンはレセプターという鍵穴に入ってはじめて作用します。このレセプターにイソフラボンが入っていることで、前述の子宮や乳房へ悪影響を及ぼすタイプのエストロゲンが鍵穴に入りにくくなって、身体を守る可能性があります。実際に乳がんリスクを下げるという報告もあります。
Q.大豆製品には、そんな秘めたパワーがあるのですね!
●髙田:大豆はタンパク質も豊富で、必須アミノ酸がバランスよく含まれている食材です。加えて、現代人に不足しがちな食物繊維も摂取できるスーパーフードです。患者さんには日々の食事の中に大豆や味噌などの大豆製品を上手に取り入れていただくことをお勧めしています。しかし、近年は大豆を食べ慣れていない人が多いようで、「味が嫌い」とか「食べ方がわからない」といった声も耳にします。また、大豆イソフラボンは体内でエクオールという形で作用し、エクオールを腸内に作りだせる人は更年期症状が出現しにくいとの報告があります。エクオールは大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって代謝されてできる成分ですが、日本人女性では約5割の人しかエクオールを作り出せないという研究結果があります。食事での大豆製品の摂取とともに、大豆を乳酸菌で発酵させて作ったエクオールのサプリメントを利用するというのも一つの方法だと思います。