ユーチューバーとして華々しいデビューを飾った坂本冬美。
そこで、今回の動画配信動機に迫る超ロングインタビューを敢行!!
インタビュアーは『坂本冬美、語る』を手掛けた棚橋和博。
3回に及ぶ動画の解説。
そして未だコンサート等が解禁されない現状の中、大物アーティストである坂本冬美が何を思うのか?──必読の内容をお届けします。
──大体一年に一度の“坂本冬美・定点観測隊”のインタビューでございます(笑)。
(笑)あっはははは…宜しくお願いします。
──(笑)この度、ユーチューバーデビュー(「坂本冬美が自宅で自主練」と題した40~50分に及ぶYouTube動画を3回に渡ってアップ)を果たしましたが、実感はいかがですか?
(笑)ユーチューバーデビューなんてする気は全くなかったんですけれど、当初企画していたスタジオからのトーク&ライヴが(新型コロナ感染症の影響で)お届けできないということになった。でも、ファンの皆様からその企画で唄う歌のリクエストを募っていました。それをどうしましょうか? って。で、「じゃあ、自宅からやっちゃいましょう」と簡単に言ったことが始まりだったんです。そしたら思いのほか反響があって…。
──素晴らしかったですよ(笑)。
(笑)あっはははははは…素晴らしいですか?
──(笑)あれだけのパーソナルキャラクターを全面開放したのは芸歴史上初ではないかと?
初です、初です(笑)…あんなバカなところをお見せするなんていうのはねぇ…今回のような状況でなければ、そんなのは出しませんよ。
──コンサートに行かれるコアファンの皆さんは坂本さんの素のああいうキャラは多少は知っていると思いますし、私もインタビューで接してその魅力は存じていましたが、今回のYouTubeを見た一般の方達は相当驚いたと思うんですが?
そのようですねぇ(苦笑)…。
──書き込みなどを拝見すると、総じて好評のようですが?
はい、やはり、着物を着た真面目な演歌歌手のイメージを抱いているでしょうから、「あ、何だ、普通の人じゃん」っていうね。しかも何か、もの凄くおっちょこちょいだしっていう(苦笑)…それで凄く親近感を持っていただいたようです。コンサートスタッフでさえあそこまでくだけた私を見たことはないと思うんです。そういう時は仕事モードじゃないですか。だから一般の方はともかくウチのオフィスのスタッフやレコード会社のスタッフも、あ、こんな人だったんだ? っていうショックはあったと思いますね。
──あれをプロデュースしたのは御本人ということでよろしいですか(笑)?
プロデュースと言っていいのか…曲目は(マネージャーの)鈴木さんと選びましたが、とにかく自分ひとりでやるってことで一生懸命さが伝わればいいと。だからなるべく編集もしないという感じにしました。ただ、オケを作ってもらったり──最初のそもそもは、(レコード会社のスタッフ)飯島さんからの「YouTubeで配信しませんか?」というアイデアでしたから。で、小道具なんかは鈴木さんに用意してもらったりね。
──でもまぁ、素の自分をそのままさらけ出そうということも含めて坂本さん自身がプロデュースしたってことですよね?
そうです、そうです。皆さんからいただいたリクエストを全部見た上で、あ、これにしよう、あれにしようと決めたんですよ。本番でメールの中身を読むわけですが、パーッとしか読んでないから練習したようなきっちりとした読みができてない。だからざっくりとした甘さが出ちゃってます(笑)。
──(笑)いや、初見な感じがいいですよね?
ええ、ああいうのは練習しない感じがいいっていう。言わば、そのままです。そもそも“自主練”ってことですから、お家でやっている感じで段取り良くやらないっていう。だけど思いのほかドタバタになっちゃったんですよねぇ(苦笑)…何故なんでしょう。
──(笑)いやいや、いわゆるスタンダップコメディ的資質が昔からあると思うんですよ。
私に?
──そう、何たって第二回目なんて唄ってらっしゃるのは4曲だけ。でも50分近くやっています。いかにお喋りに時間を費やしたかってことですよ。
(苦笑)ああ、そうですねぇ…でもね、最初は30分を目途に考えて第一回目を始めたんです。だけど何故か長くなっちゃった。だから第二回目はもっと短くしようと思ったんです。でもね、編集しちゃうと作り込んじゃっている感が出ちゃう。だからこのままやっちゃいましょうって。それを見越して二回目は一曲減らしましょうってことで4曲にしたの。ところが電話で御出演いただいた(泉)ピン子さんとの話が盛り上がって(笑)…で、結局第一回目より長くなっちゃったんですよ。
──(笑)とにかく坂本さんとピン子さんの会話が圧巻でした。
あ、そうですか(苦笑)?
──電話をすると相手(ピン子さん)は、「幸楽です。出前は5時からなんですー。で、何? おひとり様? 「寂しい定食」?」って返してくるわけですよねぇ(笑)。
そうなんですよねぇ(笑)…。
──あんな凄い方と丁々発止をやっている坂本さんも凄いですよねぇ。
まさか、“幸楽”で来るとは思ってなかったから、どうしようかと思ったんですよ。でも、私、それにちゃんと対応できていましたか(笑)?
──はいはい、大丈夫です。そしたら今回のYouTubeについて、「あんた、スナックのママじゃないんだから」って散々言われてましたよね?
(苦笑)そうなんですよぉ…。
──ダメ出しされつつも、「さすが歌はプロよねぇ」と誉めて下さいました。
はいはい、そうでした。
──2人の会話だけで10分以上はあったんじゃないかっていう…。
そう、結構たっぷり。で、ピン子さん、いつもお電話いただいても、返事ができないくらい句読点なしに喋りっ放し。だから編集のしようがないんです。私の入る隙がない(苦笑)…だからあんな感じになったんです。
──あれは普段の電話そのままですか?
もう、あのままです。ホント、私の入る隙がないんですから。
──聞き上手だからピン子さんも喜んでお話になられるという。
ああ、そうなんですかねぇ。
──で、後で三回分のハイライトにもう少しずつ触れたいと思うんですが、総括すると天才的な芸でしたよねぇ。
(苦笑)いやぁ、何も芸はしてないんです。本当に真面目にやっているのに、何故こんなミスをするんだっていう。機械の操作はしょうがないにしてもですよ…。
──生じゃないですから編集できるのに、機材のスイッチを押したら別の曲の音が出たとかっていうドタバタ劇の部分が残っていますね(笑)?
(笑)一回目は緊張感があったんですが、ああなった以上、もう、しょうがないと思って。自主練なんだからそのまま流しちゃおうと。もうね、ああいうドタバタ感を一回流したら、もう怖いものはないじゃないですけど、さらけ出した感は半端ないですよね。『また君に恋してる』でジーパンを履いた時や(忌野)清志郎さんとやった時にセーラー服を着ちゃったり。ああいう、もう、しょうがないやっていう開き直りです。外国の方からいただいた英文メールを読み上げた部分もカットしようと思ったら出来たんですよ(苦笑)。
──(苦笑)はい、あの発音の悪さはさすがに早送り処理で良かったと思います。
早送りにしたのは本当に聞くに堪えられないってことで。あまりにもひどい…あの程度で抑えた方がいいと鈴木さんが決断してくれました。
──いいスタッフに支えられています(笑)。
(笑)本当にひど過ぎますっていう。
──で、今回の舞台となった自主練の場所は御自宅のどういうお部屋なんですか?
あそこは私の自宅で、ちょっと勉強する時のお部屋です。もうひとつ、本当に小っちゃい、わーって大声を出すところはあるんですけど、そこはあまりにも狭すぎるんですよ。で、その隣のCDとか本とかを置いてあるお部屋でやったんです。
──まさにCD棚があって。後ろにクリムトの絵が飾られ、HISと二葉(百合子)先生のレコードがあって。そこで音響をセッティングしてやろうという判断は坂本さん自身がされたと?
そうです。
──そこで普段着というか、セーターを着てやろうというのも坂本さんのアイデアですか?
はい、とにかくヘアメイクさんがいない。だから自分でメイクをしました。何せ自主練なので、あまりに気張ったらおかしいし、そこで和服で出て行ってもちょっと違和感があると思うんですよ。東京は特に自粛、自粛で家から出ちゃダメという状況なので、本当に着つけさんもメイクさんもいない。もう、一カ月以上も来ていただいてないんです。だからあれでやるしかしょうがないんです。
──『夜桜お七』は和服を着てイントロの最初のポーズで始まること=仮面ライダーの変身のようなセットかと思っていたんですが、実は関係なかったですね?
はい…本当ですか(苦笑)?
──しかし、歌が凄かった。最初歌が聴こえて来た時に口パクかと思うほどの完成度で…。
いやいや、そんなこと、あの状態では出来ません。むしろその方が難しい。
──マイクをお持ちじゃなかったので…そしたら地声をそのまま拾っているだけだったんですね?
そうです、だってウチにマイクがないんだもの。
──誰があの音と歌とのバランスを取ったのかと思うほどの良いバランスでしたね?
本当ですか? あれは私が目一杯あるだけのボリュームを上げただけなんです。他に何もない。しかもああいう小さなプレイヤー的なものですしね。皆さんiPadとかパソコンとかでやってらっしゃるんでしょうけど、私はパソコンも何も持ってない。あれでしか出来ないんです。
──レコード会社のスタッフさんとかがセッティングしてくれればと思いますが、それを今やっちゃいけないですからね?
そう、スタッフを呼んだら3密になっちゃいます。だから私と鈴木さんとで細々と…。
──まさに開き直りに近いという?
そうです、そうです。しょうがないんです。
──唄っている時のテンション、声の出し方はいつもと同じですか、それともちょっと張り上げて唄う感じですか?
普段の通りです。まさに、いつも家で練習しているような感じです。
──プロに対して失言かもしれないですけど、本当に歌がうまいんだなぁと思いました。
あら!! そこを誉めていただくのが一番。何より嬉しいですよ(笑)。
──いや、失礼かなぁと。
いやいや、とんでもない。
──これほどうまいものなのかと…。
いいえ、お恥ずかしい限りです。
──ああいう感じで練習をしてらっしゃると?
そう、いつもあれで音を出して。で、勿論、発声をやってからですけどね。
──声出しをしてから挑むという?
はい。
──マイクもなし、機器にエコーをかけるとかっていう加工もない。過剰な演出もまるでない。まさに丸腰状態の素の生歌ですよね?
ああ、そうですかねぇ…何か仕掛けは全く考えなかったですね。ただ、絶対音を持っていないので音をかけないと無理だなぁっていうのがあったのと、何曲かやるというのを決めていましたが、ア・カペラはちょっと嫌だなぁって。ちょこっと鼻歌程度のア・カペラだったらいいけれど、音程が高くなったり低く出過ぎたり、そういうとんでもないことになっちゃうのは笑えないですからね。だから音は最低限何となく聴こえるという。まぁ、早い話が、家で練習している時のままなんです。
──こういう坂本冬美が見れたという驚きです。コロナは一大事ですが、反面、こういうものが見れるという得なこともあるんだなぁと…。
そうですねぇ…怪我の功名というか、そういうことなのかなぁと結果的に思いましたよね。
──はい。で、さきほどもおっしゃっていましたが、最初はトーク&ライヴを無観客かつライヴを生配信するという企画でした。そこではちょっとは作り込もうと思っていたんですか?
それはもうばっちりメイクをして着物も着て。そして(昨夏にリリースした)『俺でいいのか』のギターバージョンを発表する予定でしたので。
──「追撃盤」ですね?
はい、それをギタリストの斎藤功さんにもおいでいただき最後に生演奏をしていただく。それを披露する為のライヴの予定だったんです。
──多少のメンバーも揃えてという?
そう、リズム隊を揃え、他の曲ではオケも使ってやろうかという話だったんです。まぁ、30分くらいのライヴを計画していたんです。
──プロモーションも兼ねてという?
そう、そこはレコード会社の意向も考えて。
──でも、3密でダメになったと?
そう、スタジオで出来なくなっちゃったんです。じゃあどうしましょうと…で、仕方なく自宅でっていう流れにつながるわけです。で、結局、自分と鈴木さんだけっていう。
──自宅って誰が言い出したんですか?
それは鈴木さん。自宅だったら声を出しても全然大丈夫だからって。
──これだけステイホームの状態が続いていますから、ファンに向けて何かを発信したい、勇気づけたいとの気持ちも強かったんですか?
勿論です。2月の半ばで劇場公演が終わって。2月の後半からまたコンサートが始まる予定だったんです。で、また5月から劇場公演があるからってテレビをほとんど入れてなかったんですよ。あっても「のど自慢」とか幾つかはありましたけど、生のコンサートの方が中心。5月の終わりまではそういう予定が組まれていたんですけど、全てのコンサートも延期し劇場公演は中止になった。で、幾つかのテレビも中止になりました。そうなるとファンの方と接する場面がもうないわけです。で、6月には幾つか延期したコンサートが入っているんですけど、これはまだ決定は出ていませんが、一体どうなることか…もしかしたら厳しいかもしれません。そうなると秋以降ということになるんですけど…でもそこで第二波が来ちゃったらどうするんだろう? って不安もある。テレビでは昔というか以前の映像を放送して下さってはいますし、それをご覧いただいている方もいらっしゃるでしょうけど、結局生で見ていただく機会がないわけです。そんな中で、たまたま生配信をするという予定を組んでいたから今回のYouTubeが出来たのであってね。その生配信をやる予定がなかったらどうしていたのかはわからないですよね。それがあったからこそ、まさかの第三弾まで出来たんだと思うんですよ。
──20~30代のポップスやロックファンを持っているアーティストはYouTubeというものが非常に身近だと思うんです。勿論、坂本さんにも若いファンの方もおられますが、ファン層から言うと年配の方が多い。中には80代や90代の方もおられる。その方々にYouTubeというツールで映像をお見せするというのは至難の技です。でも、実際ご覧になられた方も多い。功績という点でとてつもなく大きな出来事ではないかと思うんです。
(笑)ああ…功績ですか? それは…ありがとうございます。
──YouTubeなんて一度も見たことがない人も多いと思うんですよ。
そうですねぇ…確かに80代や90代の方がリクエスト下さった、ということは見ていただいているということですよね。それこそ私がブログを始めた時にご年配のファンの方が、「しょうがないわよ。これを見る為にスマホにしたわよ」とか「パソコンを買ったわよ」とおっしゃられた方がいらっしゃって。でも今回こうやって──私も初めて、今回休みになってアマゾンプライムっていうのに入りましたけれど、あそこにもYouTubeがあるじゃないですか? さらにテレビでも見れるってことも知って。そういう形で御年配の方もテレビでこのYouTubeをご覧いただいているのかもしれません。ピン子さんもそうでしたから。
──お孫さんに聞いたりしてね?
はいはい。
──そんな中で第一回目のハイライトは『俺でいいのか』の歌詞をコロナ感染に対する予防的な歌詞を新たに書き、実際手洗いのポーズを取り入れながら唄うというリメイク版『これでいいのか』の披露でした。あれは誰のアイデアですか?
あれは私です。他のアーティストの方皆さんが手洗いをするメッセージを発していて。で、私もそういうものを入れた方がいいのかなって。で、何となく『俺でいいのか』を唄っている時に、「(唄いながら)♪~これでいいのかぁ……あれ? これ、面白いじゃない」って思いつきで書いたんですよ。で、当日、鈴木さんに、「これでやってもいいかな? 後で(作詞家の吉田旺)先生がダメって言ったらカットしてくれればいいから」って言って。鈴木さんも初めてそこでこの歌を聴いたんです。そしたら採用されました(笑)。
──(笑)作詞家デビューですねぇ。
(笑)あっははは…一応ディレクターの山口さんにも、「もし何かあったら大変です。こういうことでやりますが如何でしょうか? ってお聞きして下さい」と言った。そしたらすぐに吉田先生は、「全然気にしないでやって下さいよ」と言って下さったっていう。
──大先生…さすがですねぇ。
そうですねぇ…でもまさか、あんな風になっているとは思っていないのではないかと(笑)。
──「♪~コロナ見ておれ 洗うぜ 俺は」ですからね(笑)?
でも、歌詞にある“菌”ってところは“ウィルス”だってクレームが来ましたけれど…。
──厳密に言えばそうですが、思いは充分に伝わります。同意語みたいなものですよ。
ねぇ? ウィルスっていう言葉が演歌にはなかなか乗り辛いんです。
──で、結果的にご自身がワクワク楽しむモードに入れたんですね?
そうなんです。私ね、後で自分でもあの映像を見て笑っちゃいましたけど、自分が楽しんでいるから鼻の穴が広がっているんです(笑)…ワクワクしている感が出ちゃってる。誰が? っていうんじゃなくて自分が一番楽しんじゃってる気がします。もう、自己満足(笑)。
──一回目の最後に、「やっぱり歌っていいですねぇ。最高です!!」とおっしゃってます。お客様の前で唄えないことのストレスが坂本さんの中にも相当あった証だなぁと思いましたが?
はい、自分でもそう思いました。私は家の壁に向かって一日一時間~一時間半とかコンサート並みに唄うんですけど、それは何か、ただ練習しているってだけ。ビデオカメラのあの先にファンの人達がいると思ったら、同じ練習でも違うんだなぁって。これはもう、ただ歌が好きと思って唄っているのと、ファンの方達に喜んでもらいたい。届け!! という思いがこんなにも違うものなんだということを自分が一番感じましたね。
──興奮してしまったと?
めちゃめちゃしましたねぇ(笑)。