このクラブの将来像について、もっと真剣に考えることも必要なのではないかと思う。
現代サッカーにおけるセンターバックの役割は極めて重要である。
守備面における、自陣ゴール前の最後の砦という役割だけでなく、ラインの上げ下げというチーム戦術の遂行責任者の役割も果たす。
サッカー戦術の基本として、ロングフィードなどでボールが前に大きく展開されている間に、各ラインを押し上げることが原則としてある。
攻撃の厚みをもたらすと同時に、ボールを奪われた際、より高い位置でボールを奪い返せるように、陣形をコンパクトに保っておくためである。
もちろん、このラインの押し上げについては、とりわけゲーム終盤は体力的にきついし、相手のフォワードは常にディフェンスの裏を狙っているわけであるから、ゴール前に広大なスペースを作ることは、守備面の最後の砦としては、勇気を伴う行為である。
俗に言う、「ライン間の間延び」というのは、前線と最終ラインの意志のズレから生じることが多い。
味方サポートの少なさに、「もっとラインを押し上げろよ!」と叫ぶフォワード。
「そんなに簡単にボールを奪われていちゃ、押し上げられるわけないだろ!」と言いかえす後ろの選手。
そのうち、ぽっかり生まれた広大なスペースを走り回されている中盤の選手が、双方に文句をつけ始める。サッカーにおける、負けているチームの終盤あるあるである笑。
センターバックとゴールキーパーはチームの最後尾から戦況を眺めることができる。
ゲームの流れを読んだうえで、彼らが出すパスは攻撃の第一歩となる。
中盤のプレッシャーが激しい現代サッカーにおいては、彼らが攻撃のタクトを握り、ゲームメイカーとしての役割も担っているのだ。
私も、率いている社会人サッカーチームのメンバーを選ぶ際、真っ先にメンバー表に書き込むのはセンターバックだ。
ここが攻守において万能ではないとゲームは作れない。
いずれにせよ、サッカーにそれほど詳しくない人は、試合中、ラインの上げ下げを見ていると、互いのチームのコンセプトがわかるので、気を付けてみてほしい。
そのうち、攻守の切り替えが遅くなってくる選手がでてくると、そこが目についてくるようになるだろう。
運動量というのはただ走り回ればよいというわけではない(誤解している人が多い)。
攻守の切り替えの早さと、それを繰り返しできる能力こそ、サッカーで求められている運動量である。
前置きが長くなったが、新潟のセンターバックの中心として活躍していた舞行龍が川崎フロンターレから完全移籍で戻ってきて、先日の岡山戦で、即、先発となった。
私個人が、いや、新潟のサポーターが望んでいた念願のピース。
しかし、そう簡単に結果が出るほどサッカーは甘くないのか、それとも、チーム状況がそれほどまでに悪いのか、勝負所で2試合続けての完敗は本当に痛い。
吉永監督のサッカーを見ていると、就任時からかなり変わってきているのがわかる。
シンガポールで3冠を達成した当時のサッカーは勉強不足でわからないが、両サイドバックがワイドに開き、ボールをどんどん動かしていた就任時から、最近は、メンバーを固定し、前線のブラジル人のスピードと能力を生かした縦に速いサッカーに徹している。
結果が欲しいのは現場もサポーターも一緒だろう。
結果を出していくことで、チームの雰囲気を変えていこうというのもわかる。
しかし、仮にこのサッカーで昇格しても、次につながるステップになるのか。
このような前線の個人能力頼みのサッカーでは、昇降格を繰り返すクラブの域から脱することができないのではないか。
試合にはもちろん勝ってほしい。
しかし、このクラブの将来像について、もっと真剣に考えることも必要なのではないかと思う。
【浅妻 信】
新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中