是永氏は「もっている」男だ。
それは今回の連勝でも証明されているような気がする――。
劇的な変化が起きたわけではない。シーズン当初に期待を膨らませた強さを、今になって見せつけてきたわけではない。
あくまでも泥臭く、挑戦者のように戦い、僅差のゲームをものにし、3連勝。順位を17位にまであげた。
この連勝中、1失点した金沢戦をのぞけば、ここ4試合のうち、3試合が無失点で、順位低迷の最大要因であった失点数が減った。中盤で存在感を発揮しているカウエの加入も大きいが、攻守にわたり、以前に感じられた迷いがチーム全体から消え、力強さとスピード感が戻ってきた。
ベテラン田中達也の献身的な動きに導かれるように、後ろの選手も体を張り、球際を厳しくいく。本間至恩や矢野貴章のような交代選手が結果を出す。
繰り返すが、試合内容が劇的に向上したわけではない。
しかし、何かの変化が生まれた。
この連勝が始まる前、クラブから人事に関する情報がリリースされ、アルビレックスサポーターだけでなく、サッカーファンをあっと言わせている。
現場トップである監督に続き、社長と強化部長という、シーズン中のフロントトップの交代である。
強化部長については、昨シーズンをもって解任されたはずの神田氏が復帰。社長については、中野社長については、今年いっぱいの任期となるものの、事実上のトップとして、アルビレックス新潟シンガポールの是永大輔氏が専務取締役に就任した。
監督交代というカンフル剤は効果が出なかったが、この思い切った人事が結果を生んでいる。
是永氏は新潟サポーターの多くが待ち望んでいた経営者である。
まだ41歳と若いが、アルビレックス新潟シンガポール社長就任後、チームをスポーツ面、経営面で劇的に変え、チームをリーグ屈指の強豪に変貌させただけでなく、様々なアイデアや企画をクラブ運営に投入し、親会社に頼らない独立採算へと舵を切り、赤字に苦しんでいた同チームを、黒字経営へと転換させた。
是永氏とは、私も何度がお会いしたことがあるが、とにかく、明るく、ポジティブで、ついでに体も大きい太陽のような人物である。
周りの人間が引きずられるように笑顔になる人物。
それだけでなく、アイデアを行動に移すスピードも速い。
専務取締役就任後、早速、積極的な情報発信を行っているが、まさにそれこそが、新潟のような地方クラブに求められているものだと思っている。
色々な制約や事情があるのかもしれないが、これまではあまりにも情報が一方通行のような気がしていた。
今回、是永氏が発信した情報の一つに、昨年のエースで、今年も選手登録しているのに、一向に姿を見せないホニの契約状況の詳しい説明があるが、それもしかり、例えば、今シーズンであれば、シーズン途中の補強選手の狙い(個人的には、層が薄いと思われるセンターバックではなく、なぜ中盤の選手なのか等の疑問があった)等のサポーター目線の情報を、記者会見における質疑等を通じて、積極的に情報を開示することが、ファンサービスに繋がり、より一層チームに愛着をもってもらえるようになると思うのだが。もちろん、これは取材側の責任も大きいだろう。
中野社長の様々なチャレンジは、残念ながら結果が出なかった。
こればかりは本当に結果論で、一歩違えば、今とは全く逆の結果を生んでいたかもしれない。
私が思うに、是永氏は「もっている」男だ。それは今回の連勝でも証明されているような気がする。
もっとも、個人的に、是永氏の社長就任を既定路線として話をしているが、それが決まったわけでもない。
でも、是永氏となら新潟は新たなステージを歩めると確信している。
まずは残り8試合。新生アルビレックス新潟の息吹を感じたい。
【浅妻 信】
新潟市出身。Jリーグ昇格時からアルビレックス新潟を追い続けるとともに、本業のかたわら、サッカー専門誌などに執筆している。さらにASジャミネイロの監督としても活躍中