雑誌媒体『月刊にいがた』では、「J-ROCK回顧録」なるコラム執筆を始めたので、
ウェブ媒体『日刊にいがた』では、洋楽を中心とした
「僕にとってのロック名盤八十八作品」というコラムを始めさせて頂きます。
仕事の合間を縫って、気が向いた時に、レコードやCDを聴きながら、
つらつらと楽しみながら書けたらなぁと思っています。
どうぞ、お付き合い下さい。
さて、記念すべき第一回目、第一作目は、
僕が一番好きな女性シンガー、ローラ・ニーロです
ローラ・ニーロは1947年10月18日、ニューヨークはブロンクスにて生まれ、残念ながら既に1997年4月8日、49歳という
若さで亡くなっています。死因は卵巣ガンでした。彼女は1972年と1994年の二回、日本にてライヴを行なっています。
ラッキーなことに僕は1994年の来日公演を見ることが出来ましたが、そこから3年という僅かな時間で天に召されるとは思いもしませんでした。
その訃報を新聞で知った時に、茫然としつつ動けなかったことを昨日のように思い出します。
さて、おそらく一般の方には馴染みがないであろうローラ・ニーロという人は、
シンガーと言うよりも、コンポーザー(作詞・作曲家)としての知名度の方が高いかもしれません。
若かりし頃に書いた『ストーニィ・エンド』はバーブラ・ストライサンドに、
『ウェディング・ベル・ブルース』『ストーンド・ソウル・ピクニック』はフィフス・ディメンションに、
『イーライがやって来る』はスリー・ドッグ・ナイトにカバーされ、しかも、いずれも大ヒットしたからです。
そういう意味でローラ・ニーロは一般的にシンガーソングライターという肩書きで語られることがほとんどですが、
僕は敢えて彼女のことを“シンガー”と言いたいのです。さらに言うのであれば、白人でありつつ、
素晴らしいソウルシンガーであると思うのです。
ピアノの調律師とトランぺッターを兼ねていた父親の影響から、
幼い頃から音楽が身近だった彼女。14~15歳の頃には近所の子供達とグループを結成しストリートで唄い始めます。
よく、黒人達が指パッチンのみでドゥワップを街角で唄うというのを真似たのだと思いますが、
それはまさにアメリカ=ニューヨークの光景なのだと思います。音楽が町に根付いている、羨ましい文化です。
山下達郎が『オン・ザ・ストリート・コーナー』というドゥワップをメインとしたカバー集をリリースしていますが、
ひとり多重録音作品なのに、「ストリート・コーナー=街角」というタイトルをつけたのは、
まさに、日本にはないアメリカの音楽文化への憧れだったのかもしれません。
ローラ・ニーロには駄作がないと断言します。適度なポップさとソウルミュージックがルーツだとわかるデビュー作『ファースト・ソングス』、
ヒリヒリとしたシリアスさとニューヨークの雰囲気が伝わる『ニューヨーク・テンダベリー』、
ソウル・ミュージックのカバー集『ゴナ・テイク・ミラクル』などの
60年代後半から70年代初頭の作品。
出産をし、しばらくの沈黙を経てリリースした『抱擁~犬の散歩はお願いね、そして明かりはつけておいて』、
遺作となった『エンジェル・イン・ザ・ダーク』などの後期・晩年の作品、どれもが聴き手の心を捉えて離さない傑作ばかりです。
でも、今、僕が彼女のアルバムの中から一枚だけ選ぶとしたら、死後、2004年にリリースされた、
『飛翔~ライヴ・アット・フィルモア・イースト』という1971年5月30日にニューヨークのフィルモア・イーストで収録されたライヴ盤です。
先に触れたソウル・ミュージックのカバー集『ゴナ・テイク・ミラクル』がリリースされる半年前のライヴ。
ここではピアノの弾き語りで『ゴナ・テイク・ミラクル』に収録されることになる
マーサ&ザ・ヴァンデラスの『ダンシング・イン・ザ・ストリート』、
ベン・E・キングの『スパニッシュ・ハーレム』。また、バート・バカラック作、ディオンヌ・ワーウィックの『ウォーク・オン・バイ』や
ファイヴ・ステアステップスの『ウー・チャイルド』など、ポップ&ソウルの名曲を次々に披露しています。
ローラ・ニーロという人は気難しいシンガーソングライターとか、マニアックなミュージシャンだと語られることが多いですが、
僕は、単なるポップ&ソウル・ミュージック好き、それらを得意なピアノを弾き語りで唄うという行為が大好きで、
それこそ自分最大の武器だったと思っていたのではないかと思っています。
ひょっとして、ポップスターとして脚光を浴びることを夢見ていた少女だったのではないかと思えるほど、
彼女のキャリアに於いてポップ&ソウル・ミュージックのカバーというのは、大衆性溢れるものが多いからです。
さて、『飛翔~ライヴ・アット・フィルモア・イースト』は、そんなカバー曲だけではなく、
どれもが聴く価値ありの名曲、名唱だらけの一枚となっています。若かりし頃のローラ・ニーロの歌は特にソウルフルですが、
その中でもさらに凄いと思わせるのがアルバム4曲目に収められた『アイ・アム・ザ・ブルース』です。ソウルの女王アレサ・フランクリンも逃げ出すであろう、
ソウルの宿った悶絶必至の名唱曲。ローラ・ニーロの魅力は彼女の歌=シンガーであるという証明のようなテイクでもあります。
ローラ・ニーロって誰? って思う人にこそ、まず、聴いて頂きたい一枚が『飛翔~ライヴ・アット・フィルモア・イースト』です。
入門編でもあり、彼女のベーシックな魅力が満ち溢れている一枚なのです。持ってて損はありません。