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棚橋和博音楽コラム 僕にとってのロック名盤八十八作品

【第19回】『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』ポール・マッカートニー

ジョン、ジョージ亡きあと孤軍奮闘するポール・マッカートニー しかし、彼のソロ代表作とは一体何なのか? …貴方は、何を推す?

  • 情報掲載日:2018.12.25
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。
『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』
『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』

ニルヴァーナやパールジャムなど、それなりにロックを好きで聴いてきた、30代後半男子──弊社スタッフに何気に聞いてみました。

「ポール・マッカートニーって聴いたことあるよね?
でさ、彼のソロ曲と言うと、その代表曲何かな?」と。

「………(悩みに悩んで)『バンド・オン・ザ・ラン』ですかねぇ…いや、
あれは、ウィングスだから、ソロとは言えませんかね?」

「そう、ウィングスはバンドだから、厳密に言うとソロじゃない。

じゃあ、ジョン・レノンのソロ曲って言うと、やっぱり、あれかな?」

「(即答で)そう、『イマジン』ですね」。

「だよねぇ…じゃあ、ポールのソロ曲は?」

「うーん……………………」

結局、彼の口からポールのソロ、代表曲名を聞くことは出来なかったのです。

ジョンが凶弾に倒れたのが1980年12月8日、40歳の時でした。
あれから40年近い月日が流れたことになります。

ポールはジョンの倍以上もの時間をミュージシャンとして積み重ねたことになります。
コンスタントにソロ作品をリリースし、精力的にツアーも行なっています。
つい先頃も、日本ツアーを行なったのも記憶に新しいところです。
それでも、彼の作品とは何か? を考えると、やはり、
『イエスタデイ』や『レット・イット・ビー』という、ビートルズ時代の曲のことを思い浮かべてしまう人がほとんどではないでしょうか。

それがポールの不幸だと言わざるを得ないのです。

僕のようなおっさん世代だと、ビートルズ解散直後のソロ作品が鮮烈な印象で心に残っています。
『アナザーデイ』『出ておいでよお嬢さん』『アイルランドに平和を』など、ごきげんなポップチューン連発で、ビートルズ以降も、彼の才能は枯れていない、と思わされました。
これらの曲は、日本でもヒットしましたからね。

一方のジョンは、『マザー』のどうしようもない暗さ、
そしてその後にリリースされた『イマジン』……リリース当時のイメージは、とにかく淡々としていて地味……というものでした。
大人になってから、『マザー』も『イマジン』も、彼が書かざるを得なかった、その、精神性を反映した重要な曲であったことが
わかるようになるのですが、やはりポップスとして考えると、リリース当時は、楽しい曲ではなかったという印象がどうしても拭い去れませんでした。

それでも現代に於いて、ソロ、ジョン・レノンは『イマジン』で語られ、
ソロ、ポール・マッカートニーは、代表曲がないかのように思われるのは、何だかやりきれない気持ちになるのです。

で、そんな僕はどうなのかと言うと、
ポールのソロ作品は、ビートルズ解散後の『マッカートニー』『ラム』に尽きる、と思っていました。
特に、『ラム』こそ最高傑作だと最近まで信じて疑いませんでした。
勿論、その後のバンド時代=ウィングス作品もリリースされればコンスタントに買い、
来日するとなれば、ウィングスのチケットを購入し──でも、ポールが大麻所持で捕まり、
ウィングスの来日公演は実現しませんでしたが…。
未だ学生で金欠だったので払い戻しをし、そのチケットはコピーして取ってあります(苦笑)。

『マッカートニー』
『マッカートニー』
『ラム』
『ラム』

それでも何十年か後に実現した初来日公演を見に行き、当時リリースされたアルバム、
『オフ・ザ・グラウンド』を聴きつつも、やはり、ビートルズの曲は何をやるのか?
との興味以外なかったような記憶があり、事実、『アビーロード』収録曲をライヴで聴けたことに歓喜したのでした。
まぁ、ポールの公演を見に行ったほとんどの人が、それを期待していますよね。
それはポールにとって、本当に不幸なことだと思うのです。
ビートルズの曲は喜ばれ、ソロ作品を演ると、「何、この曲?」と思われ、
中には、「ビートルズの『イマジン』は演らないのか?」とまで言われるという、
とんちんかんなお客さんさえいたという…それがビートルズの偉大さなんでしょうけどねぇ(苦笑)…。

『エジプト・ステーション』
『エジプト・ステーション』

頑張ってコンスタントにアルバムをリリースしてくれる、そんなポールに敬意を表して、僕はその都度、彼のアルバムは購入し続けてきました。

こういうコラムも書いているし、久々の来日公演も好評だったようだし、ポールのアルバムを一枚選んで書こうと考えつつ…頭の中では、『ラム』のことを書く気満々だったのですが、これまでのポールの諸作のことを、ほとんど記憶にないことに気がつきました。
ホント、失礼な奴です。

約5年振りにリリースされた新作『エジプト・ステーション』も購入し、
そして、それ以前にリリースした作品を改めて聴き直し、そこで驚いたことに…
やっぱりポールは凄い。素晴らしい作品を連発していたのだと再認識したのであります。

そんな中で僕の心を捉えて離さなかったのが、2005年にリリースした、
『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』というアルバムでした。

いやいや、『ラム』なんてとんでもない。あれをひょいと飛び越えた、傑作です。

『エジプト・ステーション』にも良い曲は沢山ありますが、76歳のポールが、
ちょっと無理してロックする感じが、ちょっと切ない気もしたのです。

でも、『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』は、すべてひとりで、のんびりと宅録した感があり、さらに、どの曲に於いても、ポールならではのメロディセンスが遺憾なく発揮された作品だったのです。
この作品、あの、コーヒーショップ、スターバックスが、レコード業界に進出し、そこが作ったレーベルから当時リリースされ、
それが少し話題になったものの、実は、作品そのもの自体を評価されたことはほとんどなかったのではないかと思います。
多分、ポールのファンですら、僕のように、まるで使命感のようにこのCDを買い、一回聴いて、「ふーん…」ってな感じで棚に並べていただけって人が多いんじゃないでしょうか。
派手さやロックテイストはありません。しかし、弾き語り感、宅録感から滲み出る、ポールの素朴さとメロディの良さが相まって、他の作品にはない瑞々しさが溢れ出しているのです。

今、僕にとって、ポールの最高傑作と言えば、これです。

ジョンもジョージもこの世を去ってしまい、ポールが孤軍奮闘と言った感じですが、こうして、作品をリリースし続ける彼こそ、ソロとしての歩みを、もっと評価されてもいいのではないでしょうか。
でも…ビートルズという偉大なバンドの一員なのだから、それは宿命であり、
致し方ないことなのでしょうけどね。

2018年も12月半ば…慌しい中で、僕は、
『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』に耳を傾けていると、ポールの優しいメロディや歌が本当に心に染みます。
ポールにはまだまだ頑張って欲しいのです。

で、この『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』というアルバムの中で特にお薦めは何かって?、
2分ちょっとの『イングリッシュ・ティー』、もう、これぞポールという『トゥ・マッチ・レイン』…
この2曲を聴くだけでご納得頂けるでしょう。
さらにこのアルバム、この曲はちょっとなぁ…という曲が一曲もないのです。
聴き進めていくと途中で止まれません。
結局、アルバム一枚全部通して聴いてしまう素晴らしさです。
そんなポールのアルバムなんて他にはないんじゃないかなぁ。
ポール、長生きして、これからも新作を楽しみにしていますよ!!

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